内容説明
文学部の女子学生「わたし」が卒業論文のテーマに選んだのは「S区S街」の風景を自作に書きしるす女性小説家「I」だった。彼女が近所に暮らすと知り、「わたし」は小説家「I」の痕跡を追い始める…。二本の私鉄が交わり座標を形成する下北沢での微妙なすれちがいが、「書くこと」と「読むこと」、作者と読者の関係をねじれさせ、言語の迷宮を創り出す―。第21回すばる文学賞受賞作。
著者等紹介
清水博子[シミズヒロコ]
1968年北海道生まれ。早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。97年「街の座標」で第二十一回すばる文学賞を受賞しデビュー
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感想・レビュー
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ふるい
11
面白かった。すごく好み、こういうの。書くこと読むこと、作者とわたし。それぞれが奇妙に渾然とした生活を引きのばし引きのばししていき、何故か経血が止まらなくても、わたしはどこか醒めている。言及に言及を重ねすぎるともはや文学に用はなく、しかしわたしに絶望感はない。この人の小説をもっと読みたい…切実に。2019/04/08
崎本 智(6)
4
現実の下北沢を舞台にして、視点人物の「私」が卒論の題材に選んだIという作家の描いた街-‹S区S街›-が作品の中で、重なり合っていく。それだけの偶然にとどまらず、多くの場面でブッキッシュな符合が見られ、視点人物の「私」がじょじょに‹S区S街›に浸食されていくところが面白かった。清水博子という小説家が昨年死んだことは、先日知ったばかりだが書き手の死を知るたびに妙な虚しさにかられるがこの小説のラストはその虚しさに近いものを読者に与えるのではないかと思う。2014/04/19
押さない
3
6/10卒論題材の小説家本人に会えるのかい会えないのかいやっぱり会えるのかと思いきや会えないままなのかい。でも、全く接点が無くなった訳では無いのかい。最後のウイルス感染オチは蛇足に感じる。2023/01/22
rinakko
3
再読。2016/08/10
あ げ こ
3
持て余す卒業論文と共に座礁しつつある女子大生の、あまりにも冴えない毎日。彼女が纏う独特の倦怠感は、彼女の心に同居する、ひどく生真面目な一面と、怠惰な性分が合わさって生まれたもの。熱意はそれなりにあるのだが、そもそもその熱意がどこから来るものなのか、どこへ向けるべきものなのかさえ、彼女にはわからない。くすぶり続ける情熱に行き場を与える気力はなく、かと言って、そのまま何もかもうやむやにしてしまえるほど無気力でもない。思いあぐねるとはまさにこの事。調子は終始低迷中、空回りしてばかりの言動が堪らなく可笑しい。2013/11/12