内容説明
寝たきりになり、娘に介護を受けている老女・ツタはある朝、自らの排泄物まみれになって目を覚ました―。なし崩しに奪われる人間の尊厳。女としての苦しみと孤独。そして、死はツタに着実に忍び寄っていた…。ある「秘密」をめぐって、愛憎に揺れる親子の絆を通し、現代日本のすべての家族にひそむ「不随」の病を見事に描き出した傑作、ついに文庫化。第19回すばる文学賞受賞作品。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まさきち
59
内なる女の性に目を向けて嫌悪を抱き、同じ性をもつ娘への憎悪を抱き、復讐するかのごとき意思を固める半身不随の老女。複雑な家庭に育ち、自らのアイデンティティーを見つけられず、外へと必死に目を向ける二人の女性。そんな二つの話を収めた一冊。それぞれの描写が過激でなく、しかし率直な言葉で表されていて、今まで味わったことのない感じを受けた文章でした。なかなかに面白い一冊でした。2022/06/25
爽
12
よく図書館で目にする1冊だったので、この際借りてみようと思って借りた。老人介護が自分の思っているようなものとは全く違っていたので、まずそこに驚いた。人に粗相を始末されることが恥ずかしくても、親戚から蔑まれても自分の生きてきた家で死にたいと思う。女という生き物に憎悪を覚えても、結局一番最後に世話になるのは娘。迷惑を掛けながら生きていくことはつらい。もう早く死が訪れないか、思うのはそのことばかり。2011/02/18