内容説明
宿題、勉強ああ嫌だ…机にむかうフリをしながら現実逃避のためにページを繰った少年は、いつの間にか物語の主人公として大海原にこぎだすはめに。そこは奇妙でハチャメチャな別世界。元の世界に戻るためには、物語の中を逃げ続ける作者を捕まえなければ!退屈な日常をがらりと変える豊かな空想の世界。大人から子どもまで、読み始めたらとまらない奇想天外なファンタジーが新装版で復刊。
著者等紹介
北杜夫[キタモリオ]
1927年5月1日東京生まれ。斎藤茂吉の次男で本名は斎藤宗吉。東北大学医学部卒。処女作は『百蛾譜』。60年『どくとるマンボウ航海記』を発表し、一躍人気作家となる。同年に「夜と霧の隅で」第43回芥川賞受賞、『楡家の人びと』で第18回毎日出版文化賞、『輝ける碧き空の下で』で第18回日本文学大賞などを受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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まふ
108
角川文庫版で読む。1961年作で少年のころ読んだ記憶があるが改めて読んだ。勉強嫌いのタローが読んでいたキタモリオ作「船乗りクプクプ」という作品の中にいつの間にか入り込んでしまい、編集者に追われたキタモリオ本人もやってきて南洋の土人国に漂流し、危難に遭遇する…、という物語。構造が現実世界と「入れ子」になっており、最後も現実に戻らず虚構の世界に行きっぱなしとなっているところがある意味ユニークであった。ところどころの文明批評的表現があるものの、さほど深刻にならずにサラリと読めばいい作品だと思う。2024/12/06
扉のこちら側
31
初読。ハチャメチャな展開の中に、はっとさせられる一文。「利口になったりバカになったり、それが人間というものだよ」「わしたちはあんたたちが、土人をバカにしている精神が気にくわない。ハダカで暮らしている者を見ると、自分たちより劣った人種だときめこんでしまう」2012/11/26
seraphim
30
初版が1977年の児童書。冒頭から驚きの展開。キタ・モリオ氏のそんな原稿を本にしちゃうなんて、出版社もそうとうオチャメだ。ネーミングセンスがデタラメで愉快。なんにもできなかった少年クプクプがどんどん成長していくのが良い。算数は苦手かもしれないけれど、クプクプ少年はけっこう博識だと思う。とても大変そうだから一緒に冒険したいとは思えないけれど、気のいい仲間達との船旅は見ていると楽しい。最後にたどり着いた島に住む人々の生き方はすごい。現代人への皮肉とも取れる。便利で楽なことに流されがちな自分を少し反省した。2014/05/29
ゆう
24
少し古い作品だからか、言い回しが昔読んでた児童書とか教科書のようでした。でも、4ページしか書いてない小説の世界に入り込んでしまって船乗りになっちゃうっていうのは楽しめました。優しい言葉だけどどことなく厳しさがあります。プクプクと何度読んでしまったことか…。クプクプ、クプクプ。これは夏に読むといい作品です。2013/07/26
K・M
23
『船乗りクプクプ』を読んだタローは本の中へ。同じく本の世界へ逃避した作者キタモリオ氏を追い求める冒険の旅が始まる‥。作者が本を2ページ書いた所で行き詰まり編集者から逃げるため物語世界へ逃げ込む斬新な展開。その書籍を購入した無垢な少年が見事に地雷を踏むという不条理。おそろしくゆるい冒険で登場人物もハチャメチャだがメタフィクションを巧みに使いこなし自虐センスもハイレベル、タローもしっかり成長を遂げる。無理やり児童書風に「書き上げました感」が逆に清々しい。大人も読める児童文学として一読の価値がある稀有な一冊だ。2021/10/28