内容説明
江戸・文政年間。長崎出島絵師川原慶賀は蘭人の肖像画を描いたり、小遣い稼ぎにあぶな絵を描いたりの退屈な日常にうんざりしていた。そんな中、オランダ商館付き医官として来日したシーボルトにその画力を見込まれ、オランダ商館長の江戸参府に同行することに。道中は見たままを正確に写す「シーボルトの眼」となって江戸に入るが、ここで彼の後半生を大きく変える人物との運命的な出会いが―。
著者等紹介
ねじめ正一[ネジメショウイチ]
1948年東京都生まれ。青山学院大学中退。詩作のかたわら、東京・阿佐谷で民芸店経営。81年、詩集『ふ』で第31回H氏賞、89年『高円寺純情商店街』で第101回直木賞、2008年『荒地の恋』で第3回中央公論文芸賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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糜竺(びじく)
41
江戸時代の長崎の出島の絵師の川原慶賀が主人公の小説です。江戸時代の実在の絵師が主人公の小説はなかなかないので、非常に興味深く読めました。しかも、作者は直木賞作家のねじめ正一さんで、出島の中の様子が、非常に生き生きと描かれていました。当時非常に有名だったドイツ人医師のシーボルトが登場し、彼に頼まれて様々な絵を川原慶賀は書いていく事になります。そして、彼についていって、色んな人に出会ったり、多くのものを見たり、また巻き込まれたりと様々な出来事が書かれていました。なんか、江戸時代の長崎に出かけたくなりました。2014/10/11
みや
17
出島出入絵師・川原慶賀の一代記。どこまで史実かは不明だが、オランダと日本の文化が入り混じる特殊な地「出島」が鮮明に描かれ、異国人同士の温かな繋がりに希望と癒しを貰った。土産用の人物画、人気商品の春画、遊女屋の天井絵、積み荷のリスト、献上品の駱駝、そして日本地図の模写。限られた時間で大量の絵を仕上げる出島絵師の生き方は他の絵師たちと随分違う。人のために絵を描く慶賀は社交的で快活で清々しく、好感を持てた。葛飾北斎の娘との恋やシーボルト事件など、激動な人生を歩んだ慶賀や出島に興味が更に増したのでもっと学びたい。2024/02/17
koji
3
少し古い本ですが、最近も読まれているようですね。私は、安倍・プーチン会談で、安倍首相がプーチン大統領からサンクトペテルブルグに所蔵されていた川原慶賀画集を贈られたとの記事を読んで、慶賀に関する書籍を検索し本書がヒットし読みました。慶賀はシーボルトの眼で植物画を描きましたが、同時に春画もそこそこ残したようですね。さて本書は、ねじめさんらしく、人情小説の趣があり読み易い小説です。特に慶賀と葛飾北斎の娘が結ばれる件は(著者の想像力の産物でしょうが)味わいを感じます。(展覧会があれば)慶賀の絵を確り観たいですね。2016/05/20
mt
3
舞台はいきなり出島商館内の蘭人の閨房から始まり、驚いた。実在した川原慶賀という出島出入りを許された絵師がシーボルトの眼となり、記録係よろしく絵を画き続ける。最後は、だらしない庶民のおっさんのように描かれた葛飾北斎の娘と結ばれる。人情味溢れる物語を書かせたら、ねじめ正一の右に出る者はいない(と私は思っている)が、この小説もこじつければ庶民の視点に立った物語だった。2015/05/05
みこと
1
出島絵師の話は初めて読んだ。江戸の浮世絵だと北斎の時代。一応のハッピーエンド、良かったよかった。最初の章、朝のほぼ満員電車で読んでいたため、周囲が気になった…。2013/09/06