内容説明
依頼主の家に住み込み、服を仕立てる「流しのお縫い子」として生きる、テルミーこと照美。生まれ育った島をあとにして歌舞伎町を目指したのは十五歳のとき。彼女はそこで、女装の歌手・シナイちゃんに恋をする―。叶わぬ恋とともに生きる、自由な魂を描いた芥川賞候補作の表題作。アルバイトをして「ひと夏の経験」を買う小学五年生、小松君のとぼけた夏休みをつづる『ABARE・DAICO』収録。
著者等紹介
栗田有起[クリタユキ]
1972年、長崎県生まれ。名古屋外国語大学外国語学部英米語学科卒業。『ハミザベス』で第二六回すばる文学賞を受賞。『お縫い子テルミー』『オテル モル』で芥川賞候補に(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
319
中篇が2つ。表題作は、これもまた候補になりながら芥川賞を逃した作品。着想はなかなかに斬新で出だしは勢いがあるのだが、残念ながらエンディングがインパクトに欠けるようだ。最後の2行が淡々とし過ぎていて、読者を引き込んだ冒頭の3行に呼応できなかったのが惜しまれる。もう1篇の「ABARE・DAIKO」にしても終結部がしぼんでいく感じは否めない。小学校5年生を主人公に物語を展開してゆくというアイディアは悪くないのだが。もっとも、こちらは表題作の持つ突飛な(いい意味で)発想はうかがえない。 2018/03/16
pino
127
15才で島を出るまでの、テルミーの幼少期の経験がとても辛くて。その事実が淡々と綴られているのがまた切ない。しかも彼女が身につけた裁縫の才能を頼りに生きる場所に選んだのは歌舞伎町。「15才」「流しのお縫い子」「歌舞伎町」。若い子が大丈夫かなと思わせる反面、大いに惹かれる設定でもある。期待通り、彼女の決して煤けない純真さが物語に色を添えてくれた。何より布を愛しく扱う描写が良かった。シナイちゃんへの揺れる恋心も物語を魅力的してくれた。たくましく生きるお縫い子テルミー(若い子たち)を応援したくなる物語だった。 2019/02/05
ぶんこ
52
頼まれた人の家に居候をして服を縫うテルミーと、父が家を出、母と二人で暮らす小学5年の誠二。2編の短編の主人公が、子どもながら自立していて切ないような、エールをおくりたいような気持ちになった。二人には、何も考えなくて良い我儘で無邪気な子供時代をあげたい。胸がウツウツするような物語なのに、読後感が悪く無いのは、やっぱり主人公が素敵だからかな。解説の江國香織さんに透察力と文章力に脱帽。2017/06/25
風眠
45
注文主の家に住み込み洋服を仕立てる、流しのお縫い子・テルミー。小さな島を出て上京後、歌舞伎町で出会った『クラブ・モンシロチョウ』の歌手・シナイちゃん(男)のドレスを縫う仕事を得る。一途でひたむきで、いつでも潔く前に前にと歩いて行くテルミーの姿は、歌舞伎町というきらびやかで妖しい雰囲気の中でふわりと浮き立つ。「シナイちゃん、シナイちゃん。一生恋人にならない人。彼だけには、だめな奴と思われたくない。」このくだりにハッとして、何度も目で追った。甘いけど甘くない、勇ましくて可憐な、お縫い子・テルミーの物語。2013/03/10
tokotoko
41
決して叶うことのない恋に悩んだり、毎日を仕事や勉強や・・・何でもいいので片想いして暮らしている方、この本の中にね、流しのお縫子、テルミーちゃんが・・・います!あとね、今、少年を生きてる方、かつて少年を生きてて、今も少年っぽさを残したまま大人になった方には、「ABARE・DAICO」で・・・2人の凸凹少年に会えますよ!絶対読んでね!っては言わないけれど、出会ってみてもいい人達かな?って、私は思います。栗田さん2作目。次の本では、どんな出会いが待ってるかな?とっても楽しみです。2015/03/29