内容説明
不自由な武家社会の中で、不測の事態を切り抜けてゆく人々を描く小説集。郡奉行の一人だった半右衛門は罪を犯した友人の逃亡を助けたために罰を受ける。その後の不遇と人間不信から立ち直る男を描く「田蔵田半右衛門」、種痘術を学び国元に戻った青年医師が、将来を約束していた女性の変貌と向き合う「向椿山」など、いずれも繊細な言葉と、静謐な筆致で紡ぐ短編八編を収録。
著者等紹介
乙川優三郎[オトカワユウザブロウ]
1953年東京生まれ。96年「薮燕」でオール讀物新人賞、「霧の橋」で時代小説大賞を受賞。その後、2001年「五年の梅」で山本周五郎賞、02年「生きる」で直木賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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KAZOO
99
乙川さんが最初に出てこられたときに読んで非常にいい読後感であったのですがその後はとんとご無沙汰していました。最近出されたこの文庫では中級或いは下級の武家の人々の生活をうまく短編で描かれています。非常に文章が読みやすく丁寧な描き方でゆったりした感じで読めます。内容は結構厳しい状況に置かれながらも最後には希望を持たせるような終わり方で私には非常に印象のいい作品集でした。今後少し乙川さんの作品を読んでみようかという気にさせてくれました。2023/02/10
nakanaka
74
8つの短編から成る短編集。流石は乙川先生、やはりどれも面白いです。特に面白かったのは、体が不自由な母親を兄夫婦と妹夫婦のどちらが面倒を看るのかで揉めるという内容の「しずれの音」です。高齢化社会の昨今よく耳にする話ですが当然昔からあった問題なわけで、改めて今も昔も人間の営みの根本は変わらないものだと感じました。そんな中短編であるにも関わらず感動的なラストに持っていく作者の技量には感服です。将来を約束していたものの医学留学のため五年間会っていなかったことですれ違いが起きた男女を描く「向椿山」も良かったです。2018/12/17
タツ フカガワ
30
再読。全8話の短編集。「田蔵田半右衛門」は藩の重職を暗殺するように命じられた男の話だが、乙川さんのなかではこれでも軽めというか明るめの作風に感じた作品で好感。「うつしみ」は、夫が大目付に捕らえられて不安にかられる妻が自分の半生を祖母の人生に重ね合わせながら武家の妻としての覚悟を決める物語で、まさに“武家の妻用心集”。うまいなあと思った一編でした。2020/11/16
masayuki
22
人生は思い通りにいかない。そんなつもりでなかったということが、思わぬ方向に転ぶこともある。まして武家社会という不自由な社会ではなおさらのこと。医者の修行から帰ってみたら、言い交したはずの女性が人の妻になっていた(「向椿山」)など、収録された8編の短編はいずれも何らかの困りごとをはらんでいる。不測の事態を切り抜け、明るい未来を予言し、余韻を残して終わる作風は、乙川優三郎の持ち味。今回も美しい日本語と、温かい人情にとっぷり浸ることができた。2021/04/25
松風
21
この時代の武家ならでは不幸な境遇からの清々しい結末。これ、かなり、好きです。2014/04/23