出版社内容情報
「普通の人々」の視点から戦中、戦後の昭和を描いた六篇。戦争がいかに人間をくるわせてしまうか、生々しい描写が痛切に訴えかけてくる。戦争文学に新たな地平をもたらした短編集。(解説・成田龍一)
内容説明
戦争は、人々の人生をどのように変えてしまったのか。帰るべき家を失くした帰還兵。ニューギニアで高射砲の修理にあたる職工。戦後できた遊園地で働く、父が戦死し、その後母が再婚した息子…。戦争に巻き込まれた市井の人々により語られる戦中、そして戦後。時代が移り変わっても、風化させずに語り継ぐべき反戦のこころ。戦争文学を次の世代へつなぐ記念碑的小説集。第43回大佛次郎賞受賞作。
著者等紹介
浅田次郎[アサダジロウ]
1951年東京都生まれ。95年『地下鉄に乗って』で吉川英治文学新人賞、97年『鉄道員』で直木賞、2000年『壬生義士伝』で柴田錬三郎賞、06年『お腹召しませ』で中央公論文芸賞と司馬遼太郎賞、08年『中原の虹』で吉川英治文学賞、10年『終わらざる夏』で毎日出版文化賞を、それぞれ受賞。15年に紫綬褒章を受章。16年『帰郷』で大佛次郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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三代目 びあだいまおう
333
戦後75年、今では凄惨な戦争体験を生き抜いた方の実体験をお聞きする機会は皆無に近い。この世に絶対はないと言われるが、唯一の絶対は『戦争を繰り返してはいけない』ではなかろうか。これは戦後作家浅田先生の非戦短編集。幾多の貴い犠牲者が出た一方、偶然にも生き残った方もいる。幸せだったのか、否!生き残った後ろめたさと終戦後の地獄!比べることは愚かだが、我々の『今』は、生き残った方々の地獄の苦しみを礎にしている!生きるとは苦しみと同義なのか。耐える尊さ、耐える意義。我々は本作を通じ非戦を誓うべきではなかろうか‼️🙇2020/07/12
KAZOO
145
浅田次郎さんによる戦争文学の短編集で6編の作品が収められています。戦争文学とはいうものの、読後感はそんなに悪いものではありませんでした。確かに戦時中の場面には悲惨な個所もあるのですが、最後は救いがある気がします。また時間の歪みによる現在と戦時中の人物の出会いなどもあったりします。2024/12/22
Aya Murakami
136
ナツイチ2019 戦死や海外の地理情報には疎いので単語の意味合いとかがなかなか頭に入ってこないのですが生と死が隣り合わせの世界というのは意味合いが分からない単語同士の隙間からじわじわしみこむ感じでした。私の祖父は(おそらく)1945年の終戦間際に徴兵検査を受けている途中空襲を受けて検査は延期になったことがあるそうです。もし延期にならなかったら祖父も小説の書かれているような環境に投げ込まれたのだろう(と大学のサークル仲間が語っていました)2019/10/24
ちょろこ
118
戦争とその後を描いた一冊。決してお涙ちょうだいではないのがいい。戦後を主軸に男と女の人生を描いた六篇は伝えたい想いがギュッと濃縮されていた、そんな重みが苦しいけれどいい。帰るべき場所を無くした帰還兵の語りの中に、夜の遊園地での親子の姿の中に、つきまとう戦争の影がさりげない描写と言葉で紛れ込んでいるのがたまらない。それを見つけるたびにぐわんと心の底が波打つような感覚を味わった。帰還=終わり、解放ではない。戦争という重い背嚢を背負った人生が続くやるせなさを目の当たりにした。また一つ思う。好きだな、ジロー小説。2024/08/02
ふう
112
抑えた文で静かに表現されていますが、戦争がもたらした十把一絡げではない悲しみや苦しみがひしひしと伝わってきます。それは多分、どの戦争でも同じ。始まってしまったらもう戻れない、失われた命も時間も取り戻せない…。伝えていくことが人間の知恵だと改めて感じました。2019/10/04