出版社内容情報
送別会の幹事だった私は、忘れ物の黒いカーディガンを渡された。だが、それを着ていた出席者はいなかった……。名手が描く、死者と生者の世界が交錯する、珠玉の幻想怪奇短編集。(解説/東雅夫)
内容説明
大切な人の突然の死。魂だけでもいつも傍にいて欲しいと願う気持ちが、見えない何かを引き寄せるのかもしれない。二十年前、男友達が自死した。彼の想いを素直に受け入れられなかった若い自分。そして今、恋愛に失敗し、仕事にも行き詰まった私は、様々な思いを抱え彼が最後に泊まった岬のペンションを訪れる―。(「岬へ」)生と死のあわいに漂う不確かな存在を、妖しく描き出す幻想怪奇小説集。
著者等紹介
小池真理子[コイケマリコ]
1952年東京都生まれ。成蹊大学文学部卒業。89年「妻の女友達」で第42回日本推理作家協会賞(短編部門)、96年『恋』で第114回直木賞、98年『欲望』で第5回島清恋愛文学賞、2006年『虹の彼方』で第19回柴田錬三郎賞、12年『無花果の森』で芸術選奨文部科学大臣賞、13年『沈黙のひと』で第47回吉川英治文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Aya Murakami
129
ナツイチ2018 ナツイチ2019 幸福の家がオーソドックスなオチながら印象深い話でした。 とある老人と交流を深めていく主人公の女性…。この女性、実は…なオーソドックスな怪談です。 ちょっと前に哲学ノコミュニティで「私たち人間は物質でできているのですよね」という話題になり、ふとこの作品が頭をよぎりました。普通の人間は物質でできているのであって決して霊魂だけで存在しているわけではないということですね。母にこの作品のことを話したら「不幸の家じゃないか」と言われてしまいました。 2020/05/13
こーた
116
不可思議な感覚が、ていねいに積み重ねられていく。人間とは奇妙なもので、まずい、とわかっていても先が気になり、頁を繰る手がとまらなくなる。出るぞ、出るぞ。まず襲ってくるのは、寒気だ。だが「その瞬間」には、身体がかっと熱くなる。一度は羽織ったカーディガンをふたたび脱ぐと、それは湿り気を帯びてずっしりと重い。どんなに信じまいとしても、その温度と重量は、まぎれもない実体をともなっている。周囲を照らす月明かりが、雨に滲む。その光のとどかない闇だまりへ、わたしはふらふらとすいよせられていく。あ、出たな。2017/09/03
ゆのん
84
7編から成る短編集。タイトルと通り全ての話が『怪談』。怖いというよりも何となく可哀想な感じのする話ばかりだった。大切な人が亡くなり、あまりの悲しみと喪失感により『死』に取り憑かれてしまうような…。個人的には『幸福の家』が良かった。862020/04/10
じいじ
83
小池真理子さんのちょっと怖い7話は、ホラーが苦手の意気地なしの私でも(何か所は怖すぎて飛ばしましたが)読めましたし、面白かったです。暑い夏の読書は、小池さん十八番の官能的な恋愛モノよりも、こちらの幻想怪奇モノの方がおすすめかもしれません。それぞれの登場人物、ストーリーに変化工夫があるので飽きません。幻想怪奇小説集三部作は『夜は満ちる』は既読ですので、残るは『水無月の墓』。早めに読んでみたい。2023/08/27
mii22.
74
安定感抜群の小池さんの幻想怪奇短編集。ここには特別な驚愕や恐怖や恐れがあるわけではなく、怖さよりも甘やかな異形のものとの交流に哀愁や郷愁が感じられる。どのお話も強烈な印象を残すものではないが、読んでるあいだの吸引力は強く小説の世界へ深く引き込まれる。特に好きなのは「カーディガン」のラスト。このあとどうなったのかしら..。フフ。2018/09/06