出版社内容情報
幕末、木曽山中の小さな宿場町。年頃になれば女は嫁すもの、とされていた時代、父の背を追い、櫛挽職人をひたむきに目指す女性を描く。中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞受賞作。(解説/佐久間文子)
木内 昇[キウチノボリ]
内容説明
幕末の木曽山中。神業と呼ばれるほどの腕を持つ父に憧れ、櫛挽職人を目指す登瀬。しかし女は嫁して子をなし、家を守ることが当たり前の時代、世間は珍妙なものを見るように登瀬の一家と接していた。才がありながら早世した弟、その哀しみを抱えながら、周囲の目に振り回される母親、閉鎖的な土地や家から逃れたい妹、愚直すぎる父親。家族とは、幸せとは…。文学賞3冠の傑作がついに文庫化!
著者等紹介
木内昇[キウチノボリ]
1967年生まれ。東京都出身。出版社勤務を経て、独立。インタビュー誌『spotting』を主宰し、単行本、雑誌などでの執筆や書籍の編集を手懸ける。著書に『茗荷谷の猫』『笑い三年、泣き三月。』『よこまち余話』『光炎の人』など。2009年、第二回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞受賞。11年『漂砂のうたう』で第144回直木賞受賞。14年『櫛挽道守』で第9回中央公論文芸賞、第27回柴田錬三郎賞、第8回親鸞賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
488
わたしにとっていい小説、それは読んでいる合間、そして読み終わってからも、登場人物たちに想いを巡らせてしまうような。尊敬する父親について、困難を乗り越えて梳櫛作りに生涯をかける登瀬とその家族。お仕事小説であり幕末小説であり、家族小説でもあり、そのうえわたしにとっては恋愛小説でもあった。今でも手作業で作られるというこの櫛、ぜひ手にとって見てみたい。2019/08/02
KAZOO
141
木内さんの4冊目ですかね。今まで出一番の小説であると思いました。島崎藤村を思い出したりしながら読んでいました。1人の女性の半生を描いたもので、昔は女性にとっては大切であったくしを作る技を父親から引き継いでいく様子がじっくりと描かれていました。最近にはない小説らしい小説でした。また再読したいと思っています。2019/02/12
じいじ
120
たかが「櫛」されど「櫛」。櫛に、これほどの「技」が隠されているとは…。とても奥が深いです職人技の世界。舞台は、中山道・木曽路の難所の薮原宿。16歳の娘・登瀬を主人公にした、櫛挽師一家の半生を丹念に描いた力作です。櫛づくりに込めた一家総出の情熱に胸がつまります。彼らが交わす方言の素朴さが、物語の味をさらに深めます。櫛挽名人の異名をもつ父親の眼鏡にかなった、職人の婿を無視して、頑なに仕事に打ち込む頑固な登瀬が頼もしくて可愛い。ついに、父を乗り越える技を身につけた登瀬。その登瀬の腹に赤子が宿る結末は感動です。2018/08/25
エドワード
99
江戸時代末期、木曾山中の藪川宿に、神業と言われる梳櫛職人・吾助がいた。長女の登瀬は若死にした弟の直助に代わり梳櫛の技術を継ごうと決意する。女子の後継ぎに不安顔の母、嫌悪する次女。「八重の桜」を彷彿とさせる封建時代の生きにくさだ。皇女和宮が通る街道の喧騒を背景に、うねる時代に流されず、とり残されず、自己を貫く登瀬が魅力的だ。天狗党に加わる源次、櫛の販路拡大に野心を燃やす、登瀬の夫の実幸の生き方も彩を添える。最後に現れる直助の絵草紙が面白い。吾助の言葉「おらのこの身が生きとる間、ただ借りとる技だ。」が印象的。2016/12/13
あさひ@WAKABA NO MIDORI TO...
98
木内作品は『漂砂のうたう』に続き二作品目。作品のクオリティとしてはそれなりに高いのかもしれませんが、主人公である登瀬の櫛挽きに対する一途な思いはまあ理解できるとしても、夫である実幸をそこまで受け入れることができないのはなぜなのかとか、いまひとつ釈然としない部分も。限られた情報の中で懸命に生きる人たちの心情を飾ることなく静かに描きそこで勝負した作品であり、このての作風は最近ではむしろ貴重だとは思いますが、物語としての面白さを自分の中でどう評価したらよいのかなと、ちょっとそんな気がしました。2018/03/21