出版社内容情報
イタリアでの暮らしとその周囲の人々との関係性を洗練された文章で綴り、絶大な支持を受けた須賀敦子。当時の文藝春秋担当編集者がその魅力と素顔に迫る。第61回読売文学賞受賞作。(解説/辻原登)
内容説明
イタリアでの暮しを流麗かつ論理的な文章で綴った須賀敦子。彼女が五冊のエッセイ集を刊行したのは、還暦を過ぎてからのわずか八年間だった。物書きに憧れ続けた彼女はヨーロッパの生活で実に多くの人びとに出会った。そして帰国後、三十年近くのときを経て描かれた物語は古びることなく、いまなお読者の心を掴んで離さない。その須賀作品の魅力に迫る。第61回読売文学賞受賞作。
目次
第1章 もう一度、コルシア書店を生きる―『コルシア書店の仲間たち』
第2章 霧の向こうの「失われた時」―『ミラノ 霧の風景』
第3章 父と娘のヨーロッパ―『ヴェネツィアの宿』
第4章 精神の遍歴―『ユルスナールの靴』
第5章 家族の肖像―『トリエステの坂道』
第6章 信仰と文学のあいだ―「アルザスの曲りくねった道」
著者等紹介
湯川豊[ユカワユタカ]
1938年新潟県生まれ。文芸評論家。64年文藝春秋入社。「文學界」編集長、同社取締役を経て2003年から東海大学教授、京都造形大学教授を歴任。10年『須賀敦子を読む』で第61回読売文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
132
生前に須賀敦子と親交のあった出版社勤めの著者が、その本人の作品などの書いている経緯などや作品論をもと文藝編集長らしい筆致で描かれています。今までに出ていない須賀敦子論であると感じます。最初に須賀敦子の作品を読まずにこの本を読むと結構難しいと感じる方がいられると思いますが、私のようにほとんど読んだものにとってはうなずけることばかりでした。2016/06/04
あ げ こ
14
浮かび上がって来る。光が。あまりにも静かで触れ難く、茫洋と広がっていた暗がりに。自分と、その言葉とを、測りようもない深さをもって隔てていた暗がりに。思いがけぬ光が。埋まって行く。遠くなって行く。そこに隠れていたもの達に触れた事で。近さを、遠さを知る。何か、輪郭を得た思いがする。言葉より沁み入り、まとまる事なく、境目を持つ事なく、重なり合い、滲み合うようにして息づいていた情景達の。息遣い、色彩、温度…淡く、けれど鮮やかに胸に居着いていた感覚達の。緩やかに見え始めた姿は新しく、濃さを増した陰影もまた慕わしい。2016/04/12
マッピー
13
イタリア文学は難しい。子供向けに書かれた『ピノッキオ』や『ピッコリ―ノの冒険』でさえ、一読で理解することは難しいのである。陽気で明るい(あくまで個人の感想です)イタリア人の心の中には、カトリックが根付いている。神と自分、善く生きるとは、などをつきつめて考えていると、小難しい、理屈っぽい小説ができあがるのかもしれない。 須賀敦子のエッセイは、そのような小難しさが説明もなく通奏低音として流れている。気力体力が充実している時じゃないと、ちょっと手を出せないなあ。日本人の書いたイタリア文学、なかなか手強いです。2020/05/15
鳩羽
12
霧のなかに見えた景色を取り戻すように過去を振り返り、描写し、想像と虚構を混ぜ合わせて、「書くこと」への希求と人生とを融合させていった稀有な作家須賀敦子。その代表的な五作を紹介しつつ、須賀敦子の人生と作品のテーマ・目的を掘り下げていく本。ただ通り過ぎてしまった時間、意味を見つけられなかった体験を、時間の経過の後に一つの経験にまで精製できたのは、須賀のゆたかな教養と実践があったからだろうが、それをエッセイのようにして読めるという贅沢さを思い出した。2016/04/04
やま
4
須賀敦子全集のポイントが理解できた。それにしても、1929年生まれの何と言う行動力、そして持っている哲学。真に尊敬する生き方だと思う。2016/04/13
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