出版社内容情報
松尾たいこの色鮮やかなイラストから、角田光代が5編の小説を創作。なくした恋も、友だちも、思い出も、いつかまたきっと会える──。なつかしく大切な一瞬を詰め込んだ、宝石箱のような一冊。
内容説明
いつのまにかなくなったもの、というのが、人生にはたくさんある。たとえば、赤ん坊のときに好きだったぬいぐるみ。水玉模様のかさ。初めてできた友だち。恋とは気づけなかった幼くてまばゆい初恋…。松尾たいこの彩り豊かなイラストから角田光代が紡いだ5編の小説には、そんな愛しくてなつかしい記憶がぎっしり。人生の出会いと別れをこまやかに綴った、せつなくもあたたかい作品集。
著者等紹介
角田光代[カクタミツヨ]
1967年横浜市生まれ。90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞。2003年『空中庭園』で婦人公論文芸賞、05年『対岸の彼女』で直木賞、07年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞、12年『紙の月』で柴田錬三郎賞を受賞。著書多数
松尾たいこ[マツオタイコ]
広島県生まれ。1995年、32歳で上京しセツ・モードセミナーに入学。98年からフリーのイラストレーターに。第16回ザ・チョイス年度賞鈴木成一賞受賞。250冊以上の書籍装丁画をはじめ、ファッションブランドへの作品提供など幅広く活躍(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
406
小学校に上がる第1話から「なくしたものたちの国」にいたるまでの道程を5つのエピソードを軸に「わたし」(成子)の一人称語りで綴る連作短編集。いずれのお話も「不思議」と現実とが交錯する形で語られてゆく。ただし、その「不思議」は、あるいは成子の幻想であるのかも知れない。5話の中では、しいて言えば「キスとミケ、それから海のこと」に一番共感を覚えるが、全体のトーンはあくまでも軽く、したがって深刻に胸に響くというほどには至らない。松尾たいこ氏の絵はいいが、本文との有機的な関連性を持たないのははなはだ残念である。2019/03/13
masa@レビューお休み中
120
読了後に感じたのは、気色の悪いゾワゾワ感だった。人によって感じ方は違うし、きっとこの物語に爽快さを感じる人もいるかもしれない。けれども、僕はそうは思わなかった。ねっとりとして、すっきりとしない。人間の業のようなもの、欲望の果てにあるものを見せられたような気がするのだ。ひとりの女性の生涯を追った物語は、なくしたものたちをテーマにしている。なくしたものたちはどこに行くのか。なくしてしまったカメラも、金のかんむりも、山羊のゆきちゃんも…。すべてが集まる国があるとしたら、あなたはそこに行きたいと思いますか?2016/01/05
ちゃちゃ
119
なくしたものがたとえ何であろうと、かつて自分と繋がったものが失われてしまったという喪失感は痛みをもたらす。お気に入りの髪留めだったり、プレゼントされた手袋の片方だったり、重要な仕事上のデータだったり…。でもそれは、どこか遠くの「なくしたものたちの国」に保管されているのだ、と思うと心が和らぐ。今は見つからなくても、いつか遺失物保管庫の鍵を手に入れて、再び会えるかもしれない。そう思ったとき、やはり心に浮かんだのは亡き母の笑顔だ。いや、鍵はこの手の中にある。そして、遺失物保管庫はこの心の中にあるのかもしれない。2020/03/14
ケンイチミズバ
92
女子高生になったナリを電車でナンパした男子中学生は亡くなったミケ。海が見たかった。海が見れてうれしい。授業をさぼり、かつてのミケと海に行った。銃一郎がミケだと母が信じなかったらなんて杞憂だった。平然と思い出をしゃべる彼を抱きしめた母の顔は涙で溢れた。このシーンがすごく好き。苦情が来てペスを山まで捨てに行った。バイクが加速しペスは追いかけるのを諦めた。父の背中にしがみついて泣いた。翌朝、ペスがいつものように犬小屋の下から出てきてあくびする姿を見て私は回転して喜んだ。ペスが死んでからペットは飼っていません。2017/03/21
(C17H26O4)
86
足りているのに圧倒的に足りない。鮮やかなのにとてもさみしい。音もどこかに吸い込まれて、ひとりぼっちの静けさ。松尾たいこさんの絵が記憶のどこからも消えてなくなってしまったものと結びついて、なつかしさがこみ上げて泣きたくなってしまう。今までどれだけのものをなくしてきただろう。なんて考えることは、自分を辿っていくようで、不意打ちをくらったようで。それから気づくのだ。いいの、って。だって、なくしてしまっていても今もわたしの一部でしょう?再会していることだって実は、きっと、あるでしょう?2019/07/02
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