内容説明
環境問題のむずかしさは、まず何が問題なのか、きちんと説明するのがむずかしいことにある。しかし、その重大性は、戦争、経済などとも比較にならない。百年後まで人類がまともに生き延びられるかどうかは、この問題への取り組みにかかっているとさえいえる。だからこそ、環境問題は最大の政治問題なのである。そもそも「人間社会」対「自然環境」という図式が、問題を見えにくくしてきたし、人間がなんとか自然をコントロールしようとして失敗をくりかえしてきたのが、環境問題の歴史だともいえる。本書は、環境省「二一世紀『環の国』づくり会議」の委員を務め、大の虫好きでもある著者による初めての本格的な環境論であり、自然という複雑なシステムとの上手な付き合い方を縦横に論じていく。
目次
第1章 虫も自然、人体も自然
第2章 暮らしの中の環境問題
第3章 歴史に見る環境問題
第4章 多様性とシステム
第5章 環境と教育
第6章 これからの生き方
著者等紹介
養老孟司[ヨウロウタケシ]
1937年神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学医学部卒業、同大学院博士課程修了。95年東京大学医学部教授を退官。北里大学教授。東京大学名誉教授。専門は解剖学。2001年環境省「二一世紀『環の国』づくり会議」委員に
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感想・レビュー
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やすらぎ
130
私は以前、お目にかかったことがある。しかし私はあなたを存じておらず、無知とはこれほど残酷なものかと恥じている。…養老孟司先生65歳の本。先生の主張は一貫しておられる。虫、手入れ、環境、食の安全、生物多様性、教育、参勤交代。私は以前から考えていたが、世間が環境問題を書けという。自己流でよければ、これから生きていく社会に対して、言いたいことを言わしてもらった本である。~この世のなごりに、ひと目あんたに会いたいと思って。あんた方は私の先祖をさんざん殺してくれましたが、いまやとうとう一族全滅、私が最後の一頭です~2019/11/18
さきん
30
何冊も養老氏の本は読んできているので真新しいこは感じなかったけれども、切実に感じるのは、養老氏の考えが生かせるような社会になっていないこと、故郷や自然豊かのところで羽を休めたい、または住みたいといっても自営業で成功するか、役人になるか、金持ちになるしかない。環境問題も2000年代前半は関心を向ける余裕が日本人にいくらかあったが、今は目の前の生活で手一杯。なんとか東京以外の地域を活性化させたい。2018/06/10
tetsu
21
★4 養老孟司による環境問題の話。 地道なフィールドワークをベースとする著者ならでは視点は説得力がある。 環境保護団体の反捕鯨は、商業捕鯨によるクジラ減少を防ぐというより、ベトナム戦争での枯葉剤による環境破壊の追求をかわすためアメリカが手をまわしたという話は、環境問題が政治に利用される現実をよく表している。二酸化炭素排出権取引なども裏でいろいろありそう。 また、地方再生のため年に3か月強制的に田舎に住む参勤交代のアイデアはユニークで面白い。里山再生や現在地方が抱える様々な問題が一気に解決しそうな気がする。2017/03/26
佐島楓
18
環境論として優れていると思うし、わかりやすかった。人間も自然の一部。子どもの存在は自然そのもの。非常に腑に落ちる。だからこそ、無責任ではいられない。2013/03/03
Sakie
14
饒舌な養老先生が「いちばん大事」に絞って話せるのかという懸念と期待を持して。『グローバル化した経済とは、地球規模の花見酒である』とは先生自身が発想した表現ではないが、面白い。自然のことを埒外に置いて、実体のない経済に終始するから、終いには空っぽになるというお話だ。小さな脳が身体も自然も支配できると主張しているだけで、身体は自然に属するのだから、心と身体の対立もまた環境問題。欧米の仕組や概念を持ち込む程、人間は自然でなくなってゆくみたい。先生は「とんでもねぇ時代だ」と思っているのですって。ほんとに、ねぇ。2016/03/22