内容説明
「日本百名山」の作家・深田久弥(一九〇三~七一)の愛と創作の秘話。なぜ深田は初期の瑞々しい小説世界から離れ、山の作家へと転身したのか。その秘密を解く鍵は二人の女性にあった。ひとりは、「改造」編集者時代に懸賞小説に応募してきたことをきっかけに結婚し、「共同作業」で作品を紡ぎ出していった北畠八穂。もうひとりは、思いがけず再会し、忍ぶ恋から二度目の結婚にいたる一高時代の初恋の女性・木庭志げ子。戦前・戦後の文壇状況のなかに作家の創作経緯を検証し、真実に迫る。
目次
第1章 運命の見えない手
第2章 人生はトンボ返り
第3章 賽子は振られた
第4章 火宅の人
第5章 故郷の山々に抱かれて
第6章 残された唯一の道
第7章 山の文学者・誕生
著者等紹介
安宅夏夫[アタカナツオ]
1934年金沢市生まれ。詩人、文芸評論家。慶応義塾大学文学部卒業。金沢市で一八年間、高校国語科教員として勤務。その後、東京で執筆活動に専念。日本現代詩人会、大衆文学研究会、日本ペンクラブなどの各会員
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感想・レビュー
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フム
30
百名山に登るときには、登る前か後かに深田久弥の『日本百名山』を読む。今年雨飾山に登る前にも読んでから登ったのだが、雨飾山を「久恋の頂」とまで書く、深田の思い入れの強さが印象に残った。そのわけは、本書を読むとわかる。深田が初恋の人と再会した時、既に深田には妻がいた。人目を忍んで出かけた山が、その雨飾山だったのだ。熱く語るのも納得だが、何やら複雑な気持ちにはなる。2人の道ならぬ恋は深田の小説家としての道を断つことになった。一方それが山の作家深田久弥を誕生させたのでもある。2024/10/16
つちのこ
3
同時期に出版された田澤拓也『「百名山」の人』を読んでなければ充分楽しめた筈だが、ストーリーも構成もよく似ている内容とあれば、二番煎じ的な感じがして、著者には申し訳ないが、力作だけに残念な気がした。 文学者としての深田像よりも登山家(というか、愛好家)としての深田にフォーカスをあてて欲しかったことに、物足りなさを感じたのが本音。 『日本百名山』はいかにして生まれたのか?その答えは、深田がたどってきた文学の道のりよりも、汗と涙に濡れたひとつひとつの山頂(ピーク)にあるような気がした。(2002.4記)2002/04/23
sekitak
2
主に情愛の観点からの本。不倫やら原作者騒動やら遅筆やらいろいろ。深田久弥は丈夫だが、100名山の文体と比べるとかなり日常は緩い人だったようだ。 ただ、カレがどのように山を楽しんだのか、が見えるような抜粋が良かった。山を愛でた人だったことは間違いではないし、その積み重ねが100名山の記述を生んだ事実は変わらない。2014/10/07
yamakujira
1
「日本百名山」の著者、深田久弥の生涯を丁寧に追った評伝。深田ファンは幻滅するかもしれないが、良くも悪くも、深田久弥もひとりの人間、ひとりの男だった。 (★★★☆☆)