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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
22
重厚な重層的な物語です。最初に旧家の娘が父親を射殺し家に火を付けて自殺したという事件、殺された父親の手記が発見されたこと、彼女はどうして自分の死には銃を使わなかったのかという疑問を提示して物語が幕を開けます。物語は自殺したアレハンドラに翻弄されるマルティンの物語、アレハンドラとその父親を中心とする複雑なエディプス劇に旧家オルモス家の歴史と、それに関係する独立期の国の歴史が絡まって展開します。何度か、どろりとした闇に包まれた屋敷を手探りで進む場面があったのですが、まさにそんな感覚の読書で終始圧倒されました。2016/03/28
柳瀬敬二
11
ミステリアスな若い女性アレハンドラと主人公マルティンの恋愛が話の(一応の)主軸。関係を持ったものの、彼女はマルティンの理解の及ぶ存在ではなく、破局の後に彼女は統合失調症の父を殺害し自身も自殺を遂げる。物語全体を覆うのは他者の理解不可能性。自身と向き合っているときの相手は所詮その人格の一部分しか曝け出さず、マルティンにとってはその彼女の一部ですら理解できるものではなかった。他にも先祖の過去や、病んだ父の手記などが入り乱れ、全てがぬかるんだ混沌の中に呑み込まれそうだったが、最後には微かな希望が残されていた。2016/12/17
pyoko45
9
ボーイ・ミーツ・ガールな出だしから、アルゼンチンの歴史に絡んだ旧家一族の数奇な因縁話。そこで起きた陰惨な事件の真相究明、「俺たちアルゼンチン人ていうのはなぁ」的内省、そして、極めつけはパラノイアお父さんのトンデモ手記、と内容盛りだくさんで、読みごたえは抜群。見透しの悪いお話で、暗く重いトーンの語りも相俟って読むのにかなり骨が折れましたが、この混濁感こそが読みどころなのだろうなあとは思います…2013/08/03
rinakko
9
素晴らしく凄まじい読み応え。憑かれ、逆巻く渦に魅入る心地。アルゼンチン旧家の娘が父親を射殺し、自身もガソリンを撒いて焼死した事件。殺された男の手記の発見、娘が自分に弾丸を使わなかった謎。これらが序で先に触れられ、本文はそこへ向けて語られていく。若く狂おしい恋、老人が語る古い内乱と没落した旧家の歴史(80年父親の首と閉じ籠った娘…)、狂気の血脈と頽廃、エディプス劇…と、幾つもの要素を含み重層的なこの物語は、重厚で異様で過剰だった。何より圧倒されたのは、盲人に強迫観念を抱く狂人の手記『闇に関する報告書』。凄い2012/02/29
刳森伸一
5
父親を殺し、その後自ら命を絶った女性アレハンドラの元恋人マルティンを一応の主人公に置いた長篇小説。不可解な女性アレハンドラの謎を巡る物語として始まるが、アレハンドラの父の狂気に満ちた独白やアレハンドラの一族の歴史などが交錯し、次第にアルゼンチンという国とその歴史が浮かび上がってくる。一読で理解できるような代物ではないが、フエンテスの『テラ・ノストラ』を彷彿とさせるような重厚な小説で圧倒的な存在感がある。どこか希望を感じるラストもいい。2020/03/19