内容説明
殺人を企む一人の男が、土砂崩れを前に途方にくれた。復讐相手の住む荒土館が地震で孤立して、犯行が不可能となったからだ。そのとき土砂の向こうから女の声がした。声は、交換殺人を申し入れてきた―。同じころ、大学生になった僕は、旅行先で「名探偵」の葛城と引き離され、荒土館に滞在することになる。孤高の芸術一家を襲う連続殺人。葛城はいない。僕は惨劇を生き残れるか。
著者等紹介
阿津川辰海[アツカワタツミ]
1994年東京都生まれ。東京大学卒。2017年、新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」により『名探偵は嘘をつかない』(光文社)でデビュー。’20年代の若手最注目ミステリ作家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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W-G
402
先の二作を支持していた層からの評価は低そう。荒土館内部の殺人を描く田所パートの緊迫感や雰囲気は、新本格初期の名作をオマージュしつつ、とてもよく描かれており、他作を凌ぐリーダビリティがあった。葛城パートが微妙な出来だったことや、仮面の執事の正体をばらすような記述ミスを筆頭に誤植が目につくこと、黄来殺しで塔にいる人物を予測することが不可能な点や、そもそも狐は小笠原と話した崩落の現場に何しにいったのか説明が一切ないこと等々、肝心な部分で破綻が多く残念。あのトリックを真っ昼間にテストしていたというのもさすがに…。2024/02/22
パトラッシュ
228
著者の「館殺人」シリーズは、新本格派が「あまりにも現実離れ」と批判されたのが冗談に思えるほどだ。自然災害が迫る異常な家族が住む大邸宅で、大がかりなトリックを使った連続殺人が起こるのだから。それでも特殊設定に走らずリアルの範囲内に踏み止まるが、やはり無理は避けられない。本書でも殺人の実行時に起こるはずの騒音に全く言及されないし、繰り返し大地震に襲われても犯行に必要な部分は無事なのは都合よすぎる。動機もありきたりだし、電気と水道が止まった館内でトイレの話が出て来ない。ミステリという名のお伽噺を読まされた気分。2024/03/22
yukaring
84
〈館四重奏〉シリーズ3冊目。私は今のところシリーズの中で今作が一番好み。交換殺人の申し出から始まるプロローグに最初から引きこまれすっかり一気読み。大学生になった葛城や田所、三谷が惨劇に遭遇するのだが今回は館に名探偵・葛城はいない。地震による土砂崩れで分断されてしまった3人が館の中と外で活躍する趣向。館では有名な芸術家一家が次々と襲われる連続殺人が発生。その頃、葛城は町の旅館で不穏な動きをする人物と出会う。この二つの事件に関連はあるのか?展開は割りと解りやすいが大技なトリックが楽しくワクワクさせられた。2024/05/17
雪紫
80
いや、外出禁止令出たのに続きどうすんのと思ったら、まさかの2年後大学生とは(笑)。災害の危機感(時期やっぱり言われてる・・・)、探偵の挫折と復活は不十分だったし(名探偵が事件を防げない問題含め)、犯人や動機はメタ読みでバレバレだったけど、読んでる時は気になって、止まらない(でも全体で見ると館より倒叙の第一部が面白かったが)。阿津川さん、ホント倒叙に館に盛り沢山。しかし、こっちでも三谷くんいて良かったわ。田所くん、凄く危なっかしいし。・・・で、地水火風の風はどうなるのやら。2024/02/28
aquamarine
75
シリーズ3冊目のスタートは地震による土砂崩れの土砂を挟んでの交換殺人の提案。話は荒土館にたどり着けなかった葛城と交換殺人を受けた彼の滞在する旅館側と、孤立させられた荒土館内の土塔家と飛鳥井、田所、三谷川で別々に進む。ミステリ好きの性でかなり早めに動機や犯人の見当はついてしまったが、荒土館のつくりや事件のインパクトは抜群で、このページ数を夢中になって一気に読まされた。楽しかった!田所の今回の頑張りは褒めてあげたい。シリーズは次作でラスト、テーマは春の風とのこと。彼らの成長をきちんと見届けたい。2024/04/11