出版社内容情報
十七歳の私たちは、「はるか遠くにある未来」を夢みていた――
私=林由起子には、林美怜と林圭一という同じ「林」の苗字を持つ友人がいた。やがて圭一は美怜と付き合うようになり、三人の関係に変化が訪れる……。国籍や性別を超えた三人の友情、その積み重ねた時間を描いた表題作をはじめ、「日本語文学」を拡張する傑作作品集。
完全に普通のひとなんか、この世に一人もいないよ。誰もが皆、それぞれ、ちょっとずつ、普通じゃないんだ。(「永遠年軽」)
おじいちゃんはね、二十歳までは、日本人だったんだよ。(「誇り」)
父が、おりこうさん、と言ってくれるから、ガイジン、とか、タイワン、とはやしたてられても耐えられた。(「おりこうさん」)
内容説明
「国籍」と「国語」のはざまで生きる「私たち」を描いた三編の物語。
著者等紹介
温又柔[オンユウジュウ]
1980年、台北市生まれ。両親とも台湾人。幼少時に来日し、東京で成長する。2009年「好去好来歌」ですばる文学賞佳作、2015年『台湾生まれ 日本語育ち』で日本エッセイスト・クラブ賞、2020年『魯肉飯のさえずり』で織田作之助賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
119
17歳の時、学年には3人の「林」がいた。ただ美怜だけは「ハヤシ」でなく「リン」と読んだ。台湾で生まれ、幼い頃日本に移り住んだ美怜は周囲と軋轢を生み、傷付きやすかった。由紀子は圭一と美怜が付き合い、破局した経緯を双方から聞いていた。美怜は22歳で日本国籍を選択するが、大学院はあたしの国台湾を選んだ。14年振りの再会で美怜は私立大学の准教授になった。圭一は台湾に移住した。由紀子は夫を得て子供はいなかった。(これからの人生では、今がいちばん若い)歳をとればとるほど楽になれることを知った。若い頃には知らないこと。2023/03/26
やも
86
台湾人としての立ち位置に足元が覚束ない(ように見える)女性たちの【永遠年軽】【誇り】【おりこうさん】の中編3話。自分の国籍になんの疑問も持たずに恩恵ばかりを受けてきた自分には、彼女たちの感覚を想像することもなく生きてきたんだな…と。台湾が好きなのに、歴史はサラッとしか知らなかったな。「生まれる時代と場所を選ぶことは出来ない。」作中そう出てくるけれど、国籍を22歳までに決めること、入管の在り方など、自分のルーツを彼女たちはしっかり見つめて歩んでいて偉いなと思いました。2023/01/07
fwhd8325
84
避けてきたわけではありませんが、何も知らないことをあらためて感じます。印象的なのは日中国交を回復した田中角栄を裏切り者と称していること。なるほど。同じアジアの中で、日本が行ってきた歴史、他のアジアの国が行ってきたこと、行っていること。大切なのは、人として尊重することから始まる。優しくも激しい内面を感じる。2022/11/27
いたろう
75
表題作を含む、3編の中短編。表題作は、高校で出会った3人の林、主人公の「私」林由起子、林圭一、そして、父親が台湾人の林美怜(リンメイリン)を巡る物語。著者の温さんは、両親が台湾人だが、1980年生まれで、幼少期に日本に来たというところは、美怜に投影されている。「あたしが生まれた頃は、台湾はまだ戒厳令下だったの」という美怜の言葉は、そのまま温さんの言葉か。「あたしはチャイニーズなんかじゃなくてタイワニーズなの」というアイデンティティーは、日本人には本質的には理解が難しいが、台湾人の紛れもない実感なのだろう。2023/01/01
konoha
61
温さんの文章は優しい。そこがとても好き。由起子、台湾生まれの美怜、圭一は高校で出会い、付かず離れずの関係を続ける。22歳までに台湾と日本の国籍を選ばなければならない美怜に会いに由起子と圭一は上海に行く。ゆっくりとそれぞれの関係性が変化していく所に共感できる。どこにでもありそうな三人の約20年の物語は自分の人生とも重なる。「誰もが皆、それぞれ、ちょっとずつ、普通じゃない」。大人になるほど困難は増えるけど軽やかに年を重ねられたらいい。「魯肉飯のさえずり」が好きな方には大人になった温さんの作品を読んでほしい。2022/11/06
-
- 和書
- がんを治すための新常識