出版社内容情報
江戸城無血開城から上野戦争へ、江戸の庶民にとっていつから東京になったのか。明治維新の歴史からこぼれ落ちた秘められた恋の行方。
内容説明
明治十五年、新政府は維新において功績のあった者たちに報告書を出すよう求めたが、上野戦争で死んだ者の菩提を弔うための寺を創ろうとしている山岡鉄舟はどこ吹く風。剣弟子の香川善治郎は、すでに詳細な書面を出した勝海舟に江戸城の無血開城はじめすべての功績が奪われるのではないかと気が気ではないが、他人のメンツをつぶすような野暮を嫌う江戸っ子の鉄舟は、手柄は勝のものでよいと言って取り合わない。それでも江戸の町を戦火から守り、東京の礎を築いたのは師匠であると信じて疑わない香川は、書面の代筆を願い出る。そう思いつめる香川に鉄舟は、なぜ江戸が東京になりえたのか真実が知りたかったら「この町そのものである女」佐絵の話を聞くがよいと紹介状を書く。下町の名物湯屋「越前屋」の娘・佐絵と上野寛永寺の若き輪王寺宮の間には知られざる深い絆があった―。
著者等紹介
吉森大祐[ヨシモリダイスケ]
1968年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。大学在学中より小説を書き始める。電機メーカーに入社後は執筆を中断するも、2017年「幕末ダウンタウン」で第12回小説現代長編新人賞を受賞し、デビュー。20年『ぴりりと可楽!』で第3回細谷正充賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Bugsy Malone
62
明治15年、維新前後の江戸の真実を知る為、山岡鉄舟の一番弟子香川は当時の出来事を調べ始める。見えてきたのは江戸の気風と上野に在り江戸の平穏を願った若き輪王寺宮と下町娘佐絵の絆。物語の面白さも然る事乍ら、痺れるような佐絵の啖呵の子気味良さに何度震えてしまったことか。史実を元にしたフィクション、どうにもツボに嵌った、これはかけがえのない物語。2024/05/30
セロリ
38
明治15年の今のうちに、記憶がまだ残っているうちに、御一新のとき何が起きたのか誰がどう動いたのかをまとめるため、それぞれが書き留めて提出するよう通達される。香川善治郎は、師の山岡鉄舟に書くよう言うが、本人はその気なし。そこで代わりに聞いて回るという筋立て。ついこないだ『勝海舟』を読んだばかりで、出てくる名前が懐かしい。上野山の江戸守護宮を任された輪王寺宮殿下を物語の中心に置き、下町の民から見た御一新が語られる。それは『勝海舟』とは真反対から見た景色だ。なるほどね。歴史として残らなかった事実もあるかもね。2023/07/10
ダミアン4号
28
江戸言葉が小気味良い。気兼ねとか忖度とかといったものとは関係ない。スパッと言い切る思い切りの良さ。いいなぁと思う。明治も半ば…山岡鉄舟の門人、香川が無血開城は師匠の功績と政府に届け出るつもりで“事変の裏”を知る江戸っ子達に話を聞く…歴史は勝者が作るもの。大政奉還、江戸城明け渡しの後、なぜ彰義隊の騒動があったのか…漠然と慢心した幕臣達の悪あがきくらいに思っていたが全然違った。勝てば官軍、薩長の田舎侍が乱暴狼藉…東京で彼らの醜聞は聞いても美談を聞かないのはそう云うわけか…東京ってぇ変な名になってもここは江戸さ2024/08/17
アイシャ
27
山岡鉄舟の弟子香川善次郎は、維新後の歴史に師匠の活躍が残されていないことを不満とし、様々な人から聞き取りで維新前夜の話を聞くことに。会う人ごとに出てくる共通の人物が、輪王寺宮能久殿下。図らずも江戸の人々に愛されて、上野宮と呼ばれた若き僧の足跡を辿る事になった香川。その想い人佐絵からはけんもほろろに追い返された香川だが、若き僧が人々から愛された理由を次第に知ることになる。上野戦争の様子が庶民の目から語られる。その江戸弁の心地よさ。失われつつある言葉。次に上野に行く時は、またこれまでとは違う目線で眺められそう2022/12/17
mitubatigril
10
幕末から明治に移り変わり時代が進んで行く中 山岡鉄舟の弟子である香川善治郎は 幕末期の記録を残していると話しを知るがそこには師の名前がなく別の人物の名前が上がっている事を知り何故そのような事になったのか正しい事実を上げるべきだと師の鉄舟の元へと談じ込むも本当の事実をしっかり調べてみろと諭され事実を知る為に関係人物たちに話しを聴いて回る事に そして事実が明らかになって行く。 2022/12/11