出版社内容情報
書物への耽溺、言葉の探求、読むことへの畏怖。
群像新人文学賞受賞作『十七八より』で瞠目のデビューを遂げた、
新鋭にして究極の「読書家作家」乗代雄介による懇親の中編集、ついに文庫化。
表題作のほかに「未熟な同感者」を収録。
内容説明
大叔父には川端康成からの手紙を持っているという噂があった。彼が老人ホームへ向かう列車に付き添うことになったわたしは、そこに居合わせた謎の男に心を掻き乱されていく。大変な読書家らしい男にのせられ、大叔父が明かした驚くべき秘密とは―(「本物の読書家」)。表題作と中編「未熟な同感者」を収録。
著者等紹介
乗代雄介[ノリシロユウスケ]
1986年、北海道江別市生まれ。法政大学社会学部メディア社会学科卒業。2015年『十七八より』で第58回群像新人文学賞を受賞し、デビュー。2018年『本物の読書家』(本書)で第40回野間文芸新人賞受賞。2021年『旅する練習』で第34回三島由紀夫賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
- 評価
本屋のカガヤの本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
95
読書家の話だと思っていたのですが、まるっきり異なっていて純文学作品でした。二つの作品が収められていて表題作は常磐線に話し手とその大叔父、乗り合わせた奇妙な人物の三者の話で一種の文学論のような感じでした。もう一つは「未熟な同感者」ということで様々な文学作品の引用が多くこれまた理解するのに大変でした。奇妙な物語ですが、何か惹かれました。2022/08/27
いっち
48
『未熟な同感者』について。『十七八より』で描かれていた高校生が、『未熟な同感者』では大学生になっている。「未熟」な「同感者」とは、主人公のことだろう。作中に「書けば過つ」とあり、「私はどうしても書かないではいられない未熟者」とあるので、「未熟」であるのは主人公だ。「同感者」とは、何かに対して「それはそうですね」と同意する人のことだとすると、主人公の、亡くなった叔母や、美人ゼミ生への態度が当てはまる。にしても難しい小説だ。わからない。わからないので再読するだろう。わかりたいと思わせる力が、この作品にはある。2023/09/05
サンタマリア
42
むぅ分からん、面白い。読みながら、なるほどとハテナが交互にくる。『本物の読書家』については、僕も主人公のようになることを恐れている。下手なことを言い恥を掻くぐらいならば、事実のみを述べ、自分の言葉は冗談に留めるのがよい。『未熟な同感者』、『誰かがその文章をそのように書いた。本を読む時に体験できるものはそれしかない。』『「完全な同感者」は、読まなければならない本を自らに指定することになる。』つまり、15000円もするカフカ全集を購入したとしても問題はなく、それどころか褒められるべき行為なのである!2022/07/24
おっしー
32
乗代作品2作目。表題作と「未熟な同感者」の二篇の中編が収録。率直な感想としては難解なこと言ってるな…って感じ。三島由紀夫やサリンジャーを登場させながら、書くことや読むことの真の意味を見つけようとする。うんうん唸りながら読んだ。前回読んだのが「十七八より」だったので、続編らしき「未熟な同感者」で、叔母との対話で悶々としていた彼女が大学に入って周りの同級生や教授とこれまた小難しそうに関わり合っているのが変わらないなぁと思った。個人的に二葉亭四迷の「実感の人」の話が面白く感じたので「浮雲」くらいは読みたいなと。2022/09/09
特盛
23
評価3.4/5。著者作品は初読み。本書は2編の中編で、それらは共通しているテーマを覗かせる。「事実は小説よりも奇なり」と「作品の外にいる他者的な作家」の二つだ。え?なんじゃそりゃ、という奇妙な出来事。川端康成、サリンジャー、漱石、二葉亭四迷、カフカ、フロベールなどを素材とした、作品から見えない作家と作品の関係。作中には出ないがプルーストの「各々の読者は、本を読んでいる時、自分自身の読者なのだ」という言葉を思い出す。作品は作家性と切り離されて存在するのか。ふむ。後味は必ずしも良くないが不思議な魅力の作品だ2024/05/28