出版社内容情報
私が漱石山房に出入したのは明治四十年から大正五年先生が亡くなられた時まで、十年間である。その間に私はただの一度も先生に叱られることがなかった。それは私が入門した時の事情から、先生がとくに私の神経をいたわって下さったということもあろうが、とにかく私は一度も先生から叱られたことがなかった。それで私は先生を恐いと思ったことがなかった。神経衰弱でいじけており、この偉い先生の前で畏まってはいたが、恐いと思ったことは一度もなかった。こんな優しい人が世にあろうかと先生の在世中も思いつづけたし、死後の現在でもあんな優しい人には二度と遭えないと信じている。(「世にも優しい人」)
漱石晩年の弟子の眼に映じた師とその家族の姿、先輩たちのふるまい……。文豪の風貌を知るうえの最良の一冊。
目次
1(漱石山房回顧;忘れ果てぬまに―伸六君に呈す;漱石とヴェロナール ほか)
2(阿部さんと夏目先生;東洋城と漱石;五段の滝 ほか)
3(若き芥川龍之介・久米正雄;佐藤春夫の人間性;私の歩んだ道 ほか)
著者等紹介
林原耕三[ハヤシバラコウゾウ]
1887・12・6~1975・4・23。英文学者、俳人。俳号は耒井。福井県生まれ。旧制第一高等学校、東京帝国大学仏文科より英文科に転じ、1918年卒業。旧制松山高等学校教授、旧制台北高等学校教授、台湾総督府在外研究員(英・仏・伊、在留。英語、英文学、比較文学)、法政大学教授、東京理科大学教授、明治大学教授を歴任。明治大学人文科学研究所所長を務めた。1907年、漱石門下となり「木曜会」に参加。漱石の本の校正、全集刊行にも携わった(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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めーてる
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