出版社内容情報
ソウルの大学への就職話というのもそれほど悪いものではないかもしれない。なにしろ自分はこの2年というもの、横文字ばかり読んできて、すっかり頭が欧米向きになってしまった。フランス語も英語も存在しない、この不思議な文字の連なりからなる国に足を向けるというのも、考えようによっては面白いに違いない。焼肉もキムチも好きだ。焼肉は食べ放題だっていうではないか。きっとこれは真の意味で冒険となるだろう。何しろまったく予備知識のない社会に、白紙同然の状態で行こうとするのだからな。となれば、ぐずぐずはしていられない。今すぐパスポートを申請し、ヴィザの発給を受け、この文字に少しでも親しんでおくことだ。わたしはそう決意した。わたしはパスポートを受け取ると、その足で南麻布にある大韓民国大使館に向かった。
1970年代に日本人が韓国を訪問するには、理由と期間の如何を問わず、ヴィザの発給を受ける必要があった。とりわけわたしの場合には、観光や就学のヴィザではない。一年間を外国人教師として過ごすには労働ヴィザを取得しておかねばならない。それは極めて稀なことだったのである。……
「ところで皆さん、韓国に行ったことはありますか。」宴会のなかで梁さんの発したひと言が「わたし」の運命を大きく変えた。20代前半の「わたし」は日本語教師として、ソウルの大学に赴任し、そこで朴正煕大統領暗殺、戒厳令の施行に遭遇する。『ソウルの風景』(岩波新書)の著者による渾身作。
内容説明
一九七〇年代後半、軍事政権下のソウルに大学の日本語教師として赴任した「わたし」は、まだ二十代前半だった…。植民地時代の記憶、兵役におもむく同世代、強烈な反共の空気。予期せぬ出会いを重ねるなか、朴正煕大統領が暗殺され、戒厳令が敷かれた!『ソウルの風景』の著者による半自伝的小説。
著者等紹介
四方田犬彦[ヨモタイヌヒコ]
1953年大阪府箕面生まれ。東京大学で宗教学を、同大学院で比較文学を学ぶ。エッセイスト、批評家、詩人。文学、映画、漫画などを中心に、多岐にわたる文化現象を論じる。明治学院大学、コロンビア大学、ボローニャ大学、テルアヴィヴ大学、中央大学校(ソウル)、清華大学(台湾)などで、映画史と日本文化論の教鞭をとった。93年『月島物語』で斎藤緑雨賞、98年『映画史への招待』でサントリー学芸賞、2000年『モロッコ流謫』で伊藤整文学賞と講談社エッセイ賞、02年『ソウルの風景―記憶と変貌』で日本エッセイスト・クラブ賞、08年『翻訳と雑神』『日本のマラーノ文学』で桑原武夫学芸賞、14年『ルイス・ブニュエル』で芸術選奨文部科学大臣賞、19年『詩の約束』で鮎川信夫賞をそれぞれ受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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