戒厳

電子版価格
¥2,090
  • 電子版あり

戒厳

  • ただいまウェブストアではご注文を受け付けておりません。
  • サイズ 46判/ページ数 338p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784065266557
  • NDC分類 913.6
  • Cコード C0093

出版社内容情報

ソウルの大学への就職話というのもそれほど悪いものではないかもしれない。なにしろ自分はこの2年というもの、横文字ばかり読んできて、すっかり頭が欧米向きになってしまった。フランス語も英語も存在しない、この不思議な文字の連なりからなる国に足を向けるというのも、考えようによっては面白いに違いない。焼肉もキムチも好きだ。焼肉は食べ放題だっていうではないか。きっとこれは真の意味で冒険となるだろう。何しろまったく予備知識のない社会に、白紙同然の状態で行こうとするのだからな。となれば、ぐずぐずはしていられない。今すぐパスポートを申請し、ヴィザの発給を受け、この文字に少しでも親しんでおくことだ。わたしはそう決意した。わたしはパスポートを受け取ると、その足で南麻布にある大韓民国大使館に向かった。
 1970年代に日本人が韓国を訪問するには、理由と期間の如何を問わず、ヴィザの発給を受ける必要があった。とりわけわたしの場合には、観光や就学のヴィザではない。一年間を外国人教師として過ごすには労働ヴィザを取得しておかねばならない。それは極めて稀なことだったのである。……

「ところで皆さん、韓国に行ったことはありますか。」宴会のなかで梁さんの発したひと言が「わたし」の運命を大きく変えた。20代前半の「わたし」は日本語教師として、ソウルの大学に赴任し、そこで朴正煕大統領暗殺、戒厳令の施行に遭遇する。『ソウルの風景』(岩波新書)の著者による渾身作。

内容説明

一九七〇年代後半、軍事政権下のソウルに大学の日本語教師として赴任した「わたし」は、まだ二十代前半だった…。植民地時代の記憶、兵役におもむく同世代、強烈な反共の空気。予期せぬ出会いを重ねるなか、朴正煕大統領が暗殺され、戒厳令が敷かれた!『ソウルの風景』の著者による半自伝的小説。

著者等紹介

四方田犬彦[ヨモタイヌヒコ]
1953年大阪府箕面生まれ。東京大学で宗教学を、同大学院で比較文学を学ぶ。エッセイスト、批評家、詩人。文学、映画、漫画などを中心に、多岐にわたる文化現象を論じる。明治学院大学、コロンビア大学、ボローニャ大学、テルアヴィヴ大学、中央大学校(ソウル)、清華大学(台湾)などで、映画史と日本文化論の教鞭をとった。93年『月島物語』で斎藤緑雨賞、98年『映画史への招待』でサントリー学芸賞、2000年『モロッコ流謫』で伊藤整文学賞と講談社エッセイ賞、02年『ソウルの風景―記憶と変貌』で日本エッセイスト・クラブ賞、08年『翻訳と雑神』『日本のマラーノ文学』で桑原武夫学芸賞、14年『ルイス・ブニュエル』で芸術選奨文部科学大臣賞、19年『詩の約束』で鮎川信夫賞をそれぞれ受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

たま

61
韓国で1年間日本語を教えることになった瀬能は多くの韓国人と知り合い、やがて朴正煕の暗殺と戒厳令(1979)を現地で経験する。瀬能は韓国の複雑さに触れ、国家軍隊民族…の問いを抱えて日本に帰るが、日本にはその問いをを共有できる環境がない。著者の実際の経験が下敷きとなった小説で、金大中誘拐や朴正煕暗殺、『世界』の通信などで強烈な独裁強権国家イメージの記憶がある私は、当時の韓国経験と日本における韓国イメージを興味深く読んだ。「行き場所のない古びた問い」を抱えていた瀬能は、20年後、この本の終わりで韓国を再訪する。2023/02/16

おたま

50
著者・四方田犬彦も、この小説の登場人物と同様に1979年から1年間韓国に滞在して、大学で日本語を教えている。これは、限りなく体験的な事実に近い小説だろう。四方田は、瀬能という主人公に託して自身の体験した韓国を描いていく。そして、四方田は私よりも一歳(学年でいうと二年)上ということで、私が当時報道で耳にし、目にし、読んだことと重なることが多い。逆に韓国について、こんなに近く、関係も深かった国であるにも関わらず、知らないことだらけだ。描かれた韓国の日常生活が、すでに衝撃の連続。2024/01/06

ケイティ

30
80年代の韓国で大学講師として滞在した、ほぼご自身の私小説。軍事政権下で緊張感ある生活を送りながらも、学生たちとの交流では当時のリアルな感覚が垣間見える。日本では全共闘、韓国で民主化運動という激動の時代を過ごした著者だが、当事者は意外に冷静で現実的。自分たちの生活は明日も続くし、何もかも呑み込んで常態化している日常というのはそういうものなのだろう。その分、等身大でフラットな視点で当時の韓国が伝わる作品として貴重です。読み応えあり、興味深かった。2022/09/20

Masakazu Fujino

17
とても面白かった。限りなくノンフィクションに近いフィクション。  1979年、大学を出たばかりの主人公は日本語教師として、韓国ソウルに向かい、朴正煕大統領の下で軍事独裁政治を進める韓国で一年生活をする。  当時の韓国の社会や人々の様子がとてもよく描かれていて、さの中で動いている主人公の考えや想いがまた、興味深い。主人公が里門洞(南山)のKCIAへ呼び出されというところでは、先日見たイ・ビョンホン主演の「南山の男たち」を思い出した。後で朴正煕大統領が暗殺されるところも出てくるのだが。四方田犬彦は文章がいい。2022/09/13

Yoshiko Kouchi

11
1979年著者がソウルに1年間大学講師として赴任した話。 民主主義とは何か、国家とは何か、民族とは何か、常に自問自答している韓国の若者。 個人的には大学に入学した年で、サークルどこにしようかなと、のんびり考えていた自分との落差を感じてしまった。 暗殺された朴大統領が清廉潔白であったとか、伊藤博文が優秀なテロリストであったとか、全く知らなかったので、知ることができてよかった。 ちなみに戒厳令下だと、司法行政は軍が握り、集会禁止、令状なしで逮捕されます。 2025/04/06

外部のウェブサイトに移動します

よろしければ下記URLをクリックしてください。

https://bookmeter.com/books/19129029
  • ご注意事項

最近チェックした商品