出版社内容情報
あの男は一体何者なんだ――?
湊川地検で起きるすべての事の裏には、必ずひとりの男の存在があった――湊川地検総務課長・伊勢。
検事でもない総務のトップがなぜ……。
「絶対悪」が見えにくい現代において、「検察の正義」とは何なのか。元新聞記者の新進作家が挑む、連作検察小説。
内容説明
一週間以内に特ダネを―。東洋新聞の司法回り記者・沢村慎吾は追い詰められていた。湊川地裁での取材中、地検の総務課長・伊勢雅行が法廷を覗く姿を見かける。陰の実力者と噂される男が、ありふれた事件になぜ関心を寄せるのか(「置き土産」)。元記者が「正義」のあり方を問う、全五編の検察ミステリー!
著者等紹介
伊兼源太郎[イガネゲンタロウ]
1978年東京都生まれ。上智大学法学部卒業。新聞社勤務などを経て、2013年に『見えざる網』で第33回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
タイ子
89
湊川地検に地検のSと呼ばれる男がいる。検事でも判事でもなく総務課長。だが、地検のNo.2と言われる次席検事である。謎に満ちた、読むほどに魅力を覚える男、伊勢雅行。彼と関わる記者、検察事務官、弁護士、検事、総務課員たちの5つの連作短編集。決して表立たない伊勢の言動、行動が彼に関わる人たちにさざ波のような影響を与えていく様はどんでん返し作品を読んでいるようで面白い。異動のない総務に何故伊勢は留まっているのか。最後に伊勢の秘密が解き明かされる部分は胸が痛くなる。続編も楽しみ。それより梅林堂の豆大福が食べたい!2021/06/19
はつばあば
53
やっと読了(^^;。金庫番の娘に続き伊兼さんの作。検察庁を私は知らないがとても威圧的に見えるし、体育系のヤクザ顔負けの大阪の刑事を冷たい目で見るイメージしかない(*´з`)。その中で湊川地検にたった一人異質な総務次長が。根っからの悪人と哀しいかな犯罪に手を染めてしまう人。十把一絡げで裁いていいものだろうかと問う。地検の縦社会の弊害を利用し、悪徳弁護士事務所を我が物のようにまとわりつかせる政治家達。検察官というのは裁判官や弁護士と違い孤高の人でもある。検察にも弁護士にも用のない波風のたたない人生が一番です2021/05/12
アマニョッキ
48
骨太!めちゃくちゃ面白かった!これ好きだろうなって思う読友さん少なくとも5人は思いつくよ。そしてこんなに面白いのに登録100もいってないの?もったいないもったいない!これも表紙で損してるタイプの作品かー。いつも通りどうしてこれ読もうと思ったのかは不明だけど、わたしめちゃくちゃ良い拾い物したかもです!伊兼源太郎さんね、ふむふむ、覚えたよ。他の作品も即読みます!2022/05/29
てつのすけ
38
地方検察庁を舞台とした全5編の小説だ。この5編すべて、正義とは何かが問われている。法律を杓子定規に適用するのが正義なのか。それは一見すると正義だが、本質的には正義ではないと考える。世の中には、法を曲げてでも守るべきものがある。今は、法やルールを少しでも逸脱すれば、これでもかというほど打ちのめされる。打ちのめしている側も潔白ではないにもかかわらず。この作品は、今の社会に疑問を投げ掛けているのではなかろうか?2022/09/14
くるぶしふくらはぎ
37
湊川地裁の総務課長、白髪の伊勢雅行。静かに冷静に感情の見えない彼は、地検のSと呼ばれ周囲から畏怖される人物。湊川地検を巡る連作短編集だが、1話完結のバラバラな事件が、俯瞰してみると一つに繋がり、各章の主人公との関わりの中で伊勢の真実が見えてくる。その人が「悪人」かどうかは「罪悪感の自覚」があるかどうか、正義とは何なのか、伊勢と関わる主人公達は事件と向き合うことで、自分の中の善良さと対峙する。畳み掛けるラストの心理描写の結論は、読者に委ねられた。2022/10/02