出版社内容情報
著者が愛読してきたライナー・マリア・リルケ「ドゥイノの悲歌」の訳をはじめ、長年にわたる詩をめぐる思索が結晶した名篇。登場するのは、マラルメ、ゲオルゲ、ヴァレリー、ソフォクレース、アイスキュロス、ダンテ、夏目漱石、ヘルダーリン、シラー、ボードレール、グリンメルスハウゼン、グリュウフィウス、ドロステ=ヒュルスホフ、ヘッベル、マイヤー、メーリケ、シュトルム、ケラー、クライスト、アル・ハラージー…
内容説明
「遠い琴の音に、ここに転がる土器がつかのまでも共鳴することもありはしないか」―ライナー・マリア・リルケ「ドゥイノの悲歌」全訳をはじめ、長年親しんだドイツ、フランスの詩人からギリシャ悲劇まで、還暦の年から九年にわたり、小説と並行して書き継がれた詩をめぐる自在な随想と、自らの手による翻訳。徹底した思索と比類なきエッセイズムが結晶した名篇。
目次
ふたつの処刑詩
人形めぐり
晩年の詩
生者の心をたよりの
鏡の内の戦慄
鳴き出でよ
莫迦な
歓喜の歌
生きながらの
無限船と破船
折角の犀
風立ちぬ
吉き口
宿業のキューマ
夕映の微笑
ドゥイノ・エレギー訳文1
ドゥイノ・エレギー訳文2
ドゥイノ・エレギー訳文3
ドゥイノ・エレギー訳文4
ドゥイノ・エレギー訳文5
ドゥイノ・エレギー訳文6
ドゥイノ・エレギー訳文7
ドゥイノ・エレギー訳文8
ドゥイノ・エレギー訳文9
ドゥイノ・エレギー訳文10
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
51
イスラム神秘主義者ハラージから始まってマラルメ、ヴァレリー、漱石、ギリシア悲劇と地域も時代も多様な詩の試訳や鑑賞、それに伴う随想がいつの間にか『ドゥイノの悲歌』の訳に収斂してゆく構成。詩の鑑賞が大変苦手なのですが、この本では作者が、ある時は詩人の生涯に寄り添いながら、ある時は自身の人生を鑑みながら、また原文の一語に込められた意味に想いを馳せながら詩の世界を逍遥させてくれて、丁寧に詩との交り方を教えてもらっているよう。作者に手を引かれ、詩に凝縮された充溢の、無常の予感、沈黙の深さなどを目一杯堪能できました。2020/04/24
古義人
5
とにかく古井由吉の引き出しの多さに驚かされる。同時平行で進めていた『野川』に収録されている「埴輪の馬」は、幾つかの俳句を引用しながら筆を進めている作品で、本作とゆるやかな連関を成している。2020/02/22
刳森伸一
3
詩に関する随筆がリルケの大作『ドゥイノの悲歌』の翻訳へと流れていく。謙虚が過ぎる氏の語りによって、ともすれば好事家の回想の類に見えてしまいそうだが、実際には、詩や言葉への奥深い見識に裏付けられた稀有な随筆と翻訳で、一つ一つの言葉とその繋がりに驚嘆させられる。2020/02/29
コーギー
2
今の私にとって詩は、それを訪うものかもしれない。ドゥイノの悲歌は、読めば読むほど意味の洪水のように感じられた。西洋古典を読むための基本的な宗教的価値観、教養がまずは欲しいな。2020/03/24
のがみ
1
古井由吉による詩の散文(訳文)翻訳とエッセイ風の語りから成る本。扱われるのは筆者が親しいドイツ詩人、フランス詩人、ギリシア悲劇など。訳文の後に筆者による解説とまではいかないが幾許かの案内がなされており、それを頼りに読み進めていける。また訳文からも筆者の息遣いが聞こえるようで韻文と散文・原文と訳文の間の調和に驚嘆した。個人的には6章鳴き出でよと8章歓喜の歌、ドゥイノの悲歌第二歌と第九歌が好み。特にドゥイノの悲歌第二歌p171の過ぎ去る時の中でのわれわれの一瞬の美しさとその儚さの描写に心を打たれた。2020/06/20