出版社内容情報
魔女狩りの焔が飛び散る15世紀からナチズムの狂乱に至る20世紀まで。大地を揺るがしつつ展開された天才たちによる創造の精神史!レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519年)が《モナ・リザ》を描き、デジデリウス・エラスムス(1466-1536年)が『痴愚神礼讃』を世に問うた16世紀初頭、ヨーロッパには「魔女狩り」の嵐が吹き荒れていた。「ルネサンス」と呼ばれる時代は、決して「文芸復興」という言葉で表しきれるものではない。そこには理性を完璧なまでに超越してしまうものを夢見る「非理性的創造者」が生み出され、のちの世界を翻弄していくことになる──。
本書は、『魔女の槌』なる書物が出現して「魔女狩り」の焔が点火される15世紀から、ナチスの狂乱が演じられる20世紀まで、500年に及ぶ精神史を描き出そうとする前人未到の試みである。
ヨハネス・ケプラー(1571-1630年)とルネ・デカルト(1596-1650年)が活躍した17世紀を経て、混沌としていた「魔術」と「科学」の境界が確定されていく。その結果として起きたのは、皮肉にも「科学」から排除された「非理性」の噴出だった。そうして18世紀には、イマヌエル・カント(1724-1804年)をも魅了したエマヌエル・スウェーデンボルグ(1688-1772年)が現れ、やがてヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-91年)という天才が生まれた。
噴出した非理性は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827年)の《第九》(1824年初演)とともに19世紀を迎え、ついにリヒャルト・ヴァーグナー(1813-83年)を出現させる。その流れは、やがてアドルフ・ヒトラー(1889-1945年)という存在をもたらしたが、その傍らでは、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-90年)が、フョードル・ドストエフスキー(1821-81年)が、そしてフリードリヒ・ニーチェ(1844-1900年)が火花を散らせていた──。
幾多の天才たちを生み出した「創造の星」たる地球は、その後、どんな道をたどったのか? そして、21世紀を迎えた今、これからどこに向かおうとしているのか? 停滞期に入ったとさえ感じられる今、人類の来し方と行く末を考えるために。第一級の精神科医が放つ、誰も目にしたことのないヨーロッパ精神史。
はじめに
第一章 魔術と科学のあいだの揺動:15?17世紀
1 ルネサンスの創造的非理性
2 魔女狩り
3 魔女狩りと闘う医師ヴァイヤー
4 ケプラーの神秘天文学
5 魔術と科学のあいだ
第二章 非理性の噴出:18世紀
1 スウェーデンボルグ問題
2 無意識の発見
3 モーツァルトという陰翳
4 反復するラプトゥス (1):ベートーヴェンの場合
5 反復するラプトゥス (2):ヘルダーリンの場合
6 ラプトゥス、その病理性と生命性
第三章 アポロンとディオニュソスの相剋:19世紀
1 《第九》以後に創造すること
2 ロマン主義芸術のラプトゥスに襲われた世代
3 夢幻恍惚と痙攣発作と
4 癲癇/ヒステリー/緊張病
5 ボードレールにとってのドラクロワ
6 ヴァーグナーとボードレール
7 『罪と罰』出現以降の創造
8 印象派絵画の悪夢
9 ゴッホはモネをどう見ていたか
10 《ニーベルングの指環》全曲初演
11 ヴァーグナー問題と〈ヒステリー〉問題
12 『カラマーゾフの兄弟』の出現
第四章 非理性の稲妻:20世紀への架橋
1 ニーチェの場合
2 いかなる「病気」がニーチェを創造者にし、そして破壊したのか
3 ゴッホの場合
4 『夢解釈』の出現
5 シュレーバーは妄想者か、夢幻者か
6 ニジンスキーという現象
7 超人の舞踏と〈緊張病〉
第五章 人類のゆくえ:20世紀以降
1 『自我とエス』
2 創造する連帯の舞台としての〈エス〉
3 ナチズム
4 ヤスパースの歴史眼
5 来たるべき「枢軸時代」の兆候?
6 「カラマーゾフシチナ」の現代性
7 「枢軸時代」と「反?枢軸時代」
8 「反ー枢軸時代」の不透明性を生きる
書 誌
あとがき
人名・作品名索引
渡辺 哲夫[ワタナベ テツオ]
著・文・その他
内容説明
ダ・ヴィンチの“モナ・リザ”とエラスムスの『痴愚神礼讃』を生んだ一六世紀はヨーロッパに「魔女狩り」の嵐が吹き荒れた時代だった。その嵐の中に出現した、理性を完璧なまでに超越したものを夢見る「非理性的創造者」としての天才たちの系譜は、以降、五〇〇年にわたって世界を翻弄し続けていく―。スウェーデンボルグ、モーツァルトからベートーヴェンを経てヴァーグナー、ニーチェ、そしてドストエフスキーに至るまで、第一級の精神科医が完成させた唯一無二の思想劇が、ここに幕を開く。
目次
第1章 魔術と科学のあいだの揺動:15~17世紀(ルネサンスの創造的非理性―エラスムスが見た「理性=狂気」の光景;魔女狩り―ルネサンス裏面の暗黒、あるいは『魔女の槌』の出現 ほか)
第2章 非理性の噴出:18世紀(スウェーデンボルグ問題;無意識の発見―メスメルとピュイゼギュールをめぐる人々 ほか)
第3章 アポロンとディオニュソスの相剋:19世紀(“第九”以後に創造すること;ロマン主義芸術のラプトゥスに襲われた世代 ほか)
第4章 非理性の稲妻:20世紀への架橋(ニーチェの場合;いかなる「病気」がニーチェを創造者にし、そして破壊したのか ほか)
第5章 人類のゆくえ:20世紀以降(『自我とエス』―創造する連帯の基礎づけ;創造する連帯の舞台としての“エス” ほか)
著者等紹介
渡辺哲夫[ワタナベテツオ]
1949年、茨城県生まれ。東北大学医学部卒業(医学博士)。都立松沢病院、東京医科歯科大学、栗田病院、稲城台病院などを経て、現在、いずみ病院(沖縄県うるま市)勤務。専門は、精神病理学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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またの名
袖崎いたる