出版社内容情報
大江 健三郎[オオエ ケンザブロウ]
著・文・その他
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おたま
52
収録作品中、長編『叫び声』、短編『セヴンティーン』『政治少年死す』『スパルタ教育』を読んだ。この頃の大江健三郎は現実に起こった事件から題材をとった作品も多く、『叫び声』では1958年に起きた小松川事件が、『政治少年死す』では1960年の浅沼社会党党首の刺殺事件が作品の中核に取り込まれている。ただ、単に事件をそのままの形で作品中に取り込むのではなく、小説の主人公の実存的な状況を照らし出す一つの方法として、想像的に取り入れられている。あくまでも大江の書きたかったのは、その時代の青年の置かれた状況だと思う。2023/04/10
ぐうぐう
27
「セヴンティーン」とその第二部にあたる「政治少年死す」の衝撃を抜きに今巻は語れないだろう。しかしそれは、実に57年ぶりの再録といった文学的事件によるものではない。もちろん「政治少年死す」が長らく封印されていた事実は何某かの日本の状況を憂う材料にはなるかもしれないが、何よりも「セヴンティーン」及び「政治少年死す」で描かれていることが、発表から60年以上を経てもなお現代的主題を放っていることこそが重要なのだ。主人公「おれ」の空虚さは、呆気ない思想的転向を見るまでもなく、(つづく)2024/12/05
かふ
22
高原至『暴力論』のサブテキストして大江健三郎『政治少年死す』がなぜ発禁になったのか知りたかった。それは純粋天皇制というテロリスト山口二矢という十七歳の少年の感情を描いたからだという。そのあとに沢木耕太郎『テロルの決算』は評価されたのは、テロリスト山口二矢よりも暗殺された浅沼首相にスポットを当てたからだという。当時この問題を純粋に追求していたのが三島由紀夫で、純粋であるゆえに自死せざる得なかった。大江健三郎は三島のネガとしてパロディ化させていくのだが受け入れられたのは三島の亡霊だった。2025/06/01
yamahiko
16
10年後に起こる三島由紀夫決起の動機に思いを馳せながら第一部を読みました。浅沼事件とリンクする第二部は、厳粛な綱渡りに凝縮されるの感あり、といったところでしょうか。それにしても、私にとって70年代までの氏の作品群の持つ緊張感は、雲上の峻嶮であり、宝であり続けていると再確認しました。2019/02/09
うつしみ
14
浅沼稲次郎刺殺事件を扱った問題作『セヴンティーン』『政治少年死す』を収録。鬱滞した若い精力を自涜で発散してばかりのオレ。勉強も運動もダメ、弁も立たず容姿も悪いオレ。己を恥じ、弱さ醜さが世間に露呈する事を恐れていて、自分より弱そうな者がいると安堵するオレ。繊細で傷つき易いオレは、右翼活動家という肩書きが自分の弱い内面を隠蔽糊塗できる事に気づく。隠蔽工作として始めたはずの活動だったが、周囲からの「コイツはホンモノかもしれない」という眼差しに酔ううちに、いつの間にかモノホンの行動家へと変貌してしまうのであった。2025/05/07