出版社内容情報
取り壊しの決まった家で再会を果たした姉と弟は、過ぎ去りし五十余年の歳月を慈しみつつ、互いの思いを確かめ合う。至極の恋愛小説。母親を亡くした8歳の秋雨が美妙の家に引き取られたのは、彼女が15歳の時だった。辛くあたる母から秋雨を庇ううちに姉弟という間柄を超えていくようであったが、その思いをずっと胸に秘めたまま、出会いから五十五年となるその日、美妙は娘夫婦と孫娘が起き出す前に、取り壊しが決まった家へと向かう――。
一 霧の香 きりのか
二 光清けし ひかりさやけし
三 色なき風 いろなきかぜ
四 天、泣す てん、きゅうす
五 浮き雲 うきくも
六 夕紅 ゆうくれない
七 空火照 そらほでり
八 月夜影 つきよかげ
有吉 玉青[アリヨシ タマオ]
著・文・その他
内容説明
母親を亡くした8歳の秋雨が美妙の家に引き取られたのは、彼女が15歳の時だった。辛くあたる母から秋雨を庇ううちに姉弟という間柄を超えていくようであったが、その思いをずっと胸に秘めたまま、出会いから五十五年となるその日、美妙は娘夫婦と孫娘が起き出す前に、取り壊しが決まった家へと向かう―。
著者等紹介
有吉玉青[アリヨシタマオ]
1963年東京都生まれ。’90年に、母・佐和子との日々を綴った『身がわり』で坪田譲治文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
128
愛を貫くとは、やはり誰か一人に対してしか無理だと私は思うのだ。もちろん、そういう1人に出会う前に複数の人に惹かれることもあるだろうが、こういう重なり方は不誠実だと思う。他の誰かを心で思うために、裏切りながらもきちんと妻の務めは果たす、というのは、愛の偽善ではないかな。秋雨は、ひたすら可哀想だった。しかし、この作品で気になったのは、何より母と娘の関係だった。息苦しくてしんどかった。 2018/05/02
いつでも母さん
119
何と各章の美しい言葉だろうー初めの【霧の香】の章で、なんとなくストーリーは想像出来るのだが、こんなに美しく日本語を綴られるとは・・そして70歳の美妙が朝晩の肌の手入れを怠らないというだけで、もう参りましたって感じです(汗)あなたは『死ぬまでただ生きていただろう。死んだように生きていただろう』なんて感じる想いをしていませんか?と言われたようでちょっと苦しい。『ただ一緒にいたかったのだ。』なんて古希の女に言わせる相手がいますか?そうしてドキドキする最期に持っていくのですね。嗚呼、参りました。2016/11/16
しいたけ
113
「人生はいっすいの夢」。叶うはずのない二人の夢は、十三夜の月の下ひそやかに時を経る。深く噛みしめた激情も、守りたいと思いつめた愛しさも、身体に記された甘やかな罪の痕も、掴みたいと願った生きる意味も、全ては一日の終わりに流れ着く。「美しさは死ぬ前の一瞬の輝きなのかもしれないね」。胸に大切な月影を置く人生。淋しいのに、切ないのに、心には暖かな灯がともる。十五夜にわずかに足りないその欠けを、想い合う二人が埋めていく。「よく、がんばったね」ああ、本当にがんばった。よく、生きた。そして美しかった。2017/01/11
ちゃちゃ
86
秋を彩る紅葉の美しさは、散りゆく前の一瞬の輝きと哀しさを纏う。美妙と秋雨の秘めた恋心は、静かな秋の一日を最期に結実する。異母姉弟として出会った二人。姉は運命に流されるがままに、弟は運命から逃れた末に、55年の歳月を経て行き着いた十三夜。満たされた想いに微笑みさえ浮かべて歩き出す二人。これでよかったのだろうか。本を閉じた私の逡巡は、答えを見つけられないまま切なさとともに宙に浮く。女という性(さが)ゆえの懊悩を、何と精緻に、妖艶に、描き上げる作家だろう。その巧みさと美しさに、息苦しくなるほどだった。2017/10/27
ゆきち
69
なんて美しい一日(いちじつ)なんだろう。異母姉弟として出会った日から、少しずつ、そして、当たり前のように心に積もる愛。それは、決して報われることのない愛。誰にも、お互いにも、伝えることのできない愛。その愛がゆっくりと、優しくそして、時には激しく語られる。今にも溢れんばかりの愛のために周りの人にも溢れ戸惑わせる。そんな愛が、誰にも邪魔されることなく重なり合う一日(いちじつ)の綺麗な秋の日は、とても美しくとても優しかった。この本を贈ってくれた読み友さんに、この本と出会えたことの嬉しさを伝えたい。ありがとう。2017/10/08
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