出版社内容情報
アラブ史上で最高の歴史哲学者の生涯と思想文明はいかに栄え、滅びるか。権力はなぜ堕落するのか。都市と田舎の格差はなぜ広がるのか。「連帯意識」を鍵に歴史を分析した14世紀の思想家の生涯と代表作。
内容説明
十四世紀のチュニスに生まれ、政治家として栄達と失脚を繰り返すなかで独自の「文明の学問」を拓いたイブン=ハルドゥーン。文明と王権はいかにして崩壊するのか、都会と田舎の格差はなぜ広がるのか、歴史の動因となる「連帯意識」とは―。イスラーム世界にとどまらない普遍性と警句に満ちた主著『歴史序説』の抄訳と、波瀾の生涯。
目次
1 イブン=ハルドゥーンの思想(日本におけるイブン=ハルドゥーン;イスラームにおける社会思想の系譜;人間社会の分析;歴史の哲学;国家理論;経済理論;学問論と教育論)
2 イブン=ハルドゥーンの生涯(イブン=ハルドゥーンの生誕と時代的背景;政治への志向;思索と著述の時代;第2の人生)
3 イブン=ハルドゥーンの著作―『歴史序説』(歴史序説;人間の文明の本質について。田舎や砂漠と都会、支配権の獲得、所得・生計・学問・技術など、文明に現われるあらゆる現象、その理由と原因)
4 後世への影響(「孤独の思想家」か;マムルーク朝の歴史家たち;オスマン朝の歴史家たち;ヨーロッパにおけるイブン=ハルドゥーン研究;現代におけるイブン=ハルドゥーン)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
可兒
5
有名な『歴史序説』の著者がたどった、波乱の人生と思索を読み解く。この人を元ネタにした小説にまだ出会えていないのが不思議なほど派手な経歴と考え方の持ち主2011/07/24
oryzetum
4
イブン=ハルドゥーンの、大河ドラマを想起させる波乱万丈の生涯もさることながら、その文明に対する深い思索の一端にも触れることができるとても素晴らしい本。特に、文明論は、何かしらの世界や物語を創りたい人には大変有益な知識になるはず。2021/07/04
ハラペコ
1
期待していたよりも若干退屈だったが、14世紀頃の北アフリカの事情とともに、社会哲学のはしりも確認出来て興味深くはあった。連帯意識の重要性の強調とともに、宗教も相対化する視点は、現代風の冷徹さを感じ、画期性を強く感じる。それと同時に、当時の北アフリカ独自の歴史・政治事情や、地理的な条件から導き出される考察には、現代科学の相容れないものもある。しかしそれも、文化や慣習から生み出された視点だと捉えれば、特定の時代・地域やそこから生まれる気風の資料として、研究される価値があるのだろう。2024/11/30
なかし
1
14世紀のイスラム圏にもヨーロッパ(キリスト)圏よりも優れた歴史家(社会学者)がいたのだという認識を持った。2017/06/04
k46
1
岩波で4冊の大著を総集編的に読める大変お手軽なハンディタイプ。2015.10時点でAmazonでも売切れ、なかなか手に入らないもので入手できていたのは幸運か。王権の源泉となる連帯意識と都会と田舎(砂漠)の地理的要因による国家の隆盛と衰退の論理。白眉は国家/権力論に留まらず、経済論、教育論など国家を形成するに必要な要素を広範にカバーしている点。この時代でイスラム系からこの手の論説をこのレベルで読めるものは少ないのでは。