出版社内容情報
現在もなお、最先端をひた走る古井文学の最高峰、初の文庫化。言葉とは、生とは、死とは何か。日本語の可能性を極限まで広げた傑作!現在もなお、最先端をひた走る古井文学の最高峰、初の文庫化。言葉とは、生とは、死とは何か。日本語の可能性を極限まで広げた傑作!
古井 由吉[フルイ ヨシキチ]
著・文・その他
内容説明
寺の厠でとつぜん無常を悟りそのまま出奔した僧、初めての賭博で稼いだ金で遁世を果たした宮仕えの俗人―平安の極楽往生譚を生きた古人の日常から、中山競馬場へ、人間の営みは時空の切れ目なくつながっていく。生と死、虚と実、古と現代。古典世界と現在の日常が、類い稀な文学言語の相を自在に往来し、日本文学の可動域を、限りなく押しひろげた文学史上の傑作。読売文学賞受賞。
著者等紹介
古井由吉[フルイヨシキチ]
1937・11・19~。小説家。東京生まれ。東京大学大学院修士課程修了。大学教員となりブロッホ等を翻訳。文学同人誌「白描」に小説を発表。1970年、大学を退職。71年、「杳子」で芥川賞受賞。黒井千次、高井有一、坂上弘等と“内向の世代”と称される。77年、高井等と同人誌「文体」創刊(80年、12号で終刊)。83年、『槿』で谷崎潤一郎賞を、87年、「中山坂」で川端康成文学賞を、90年、『仮往生伝試文』で読売文学賞を、97年『白髪の唄』で毎日芸術賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 3件/全3件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
51
仮往生とは往生の機縁になった出来事を指すようで、古人の往生伝を辿りながら、身内や知人の思い出や自身の折々を想起しながら話は進みます。その往生と日常の反復は、繰り返すことで生活を、生を切り詰め極めていくよう。繰り返される日々に、ふと「何かが破れそうに」なる。「身ひとつで世と向かいあう」瞬間、それが仮往生なのか。「ひと足歩き出せば」日常があるのだけれど、その「大事な境」「置きのこした」静まりは何と物狂おしくなごりを引くことか。そんなことが思われて、作者に導かれた仮往生は、澄明で同時にひどく胸の騒ぐ体験でした。2020/04/14
踊る猫
33
賑やかな本だな、と思った。騒がしいと言ってもいいかもしれない。古井由吉という一作家の頭の中に、こんなにも多くの日本語が犇めき合い、ざわめいているとは。生きるということは老いることであり、老いることはそのまま狂うことでもあるのだろう。もし狂わないで生きられるとしたら、それはまた別種の狂いであるはずだ(チェスタトンに倣って……)。その老い/狂いをごまかさず、往生という誰もが避けては通れない悲劇を見つめ、そして言葉にする。と整理してしまえば簡単になってしまうが、そんな単純な作業でもなかっただろう。凄まじい信念だ2021/01/27
踊る猫
33
単純な事実として、心臓が止まれば人生は終わる。だから逆に言えば、その死に呑み込まれるまで足掻き続けるだけなのが人生なのかもしれない。「往生するよりほかに、ないんだよ」という言葉がずっと頭に引っ掛かった。いずれ私も死ぬのだろう。その死をどう受け容れるか……その感受性を鍛えることで、あるいは他人に無残な死を与えることから遠ざけることになるのかもしれない。殺人鬼にならなくても良いように……私自身野暮な言葉を使えば「無敵の人」(という言葉には吐き気を感じるが)なので、この本を切っ掛けに改めて無為に終わる生を思った2019/06/01
踊る猫
31
古井由吉は難解と言われる。確かに、この『仮往生伝試文』はとっつきやすい作品ではない。ヤマを備えたカタルシスを約束してくれるストーリーが存在せず、ただストイックに過去の往生が綴られ、現在を見渡した平明な中に深遠な思索が綴られるからである。私にとってこの作品はタルコフスキーの映画にも似た叙事詩として映る(映画オンチにもほどがあると一笑に付されそうだが)。しっとりとしたエロス、時に垣間見せるユーモラスな側面、そして豊穣な日本語それ自体が見せる陶然とさせるトリップ感。何度読んでもそれらの要素たちは「消費」できない2022/03/23
踊る猫
31
我ながら、自分はドン臭い読者だなと思う。何度もしつこく読み返しているのだけれど、その都度「こんなことが書かれていたのか」と新たな発見がある。全てを暗記することなど無理なので、私としては遂に「読めない」ことを思い知らされるほかなく、打ちひしがれる。私自身は果たして「死」に肉薄したことなどあっただろうか、と思った。古井由吉は空襲経験や古今の往生をめぐる物語から死をサンプリングし、自由闊達に並べていく。読む過程で私も死を思い、心が鎮静を感じる。私が普段読む本がいかに生を謳歌し、生のざわめきに満ちているか思い知る2022/01/16