出版社内容情報
夫以外の男との関係を断ち切った後も新たな愛へと進んでいく主人公・滋子。娘との隔絶に悩み、さらには自身の体が? 三部作最終章。
夫以外の男との関係を断ち切った後も新たな愛へと進んでいく主人公・滋子。娘との隔絶に悩み、さらには自身の体が? 三部作最終章。
内容説明
戦争を時代背景に青春期から女の自立を目指し、結婚、出産を経た主人公・宗像滋子の人生は子宮癌の発症とともに新たな局面を迎え、死への漠然たる恐怖が幼年期に抱えていた性欲と対をなすものと知るのであった。そして娘との確執が彼女をさらなる混乱へ―。円地文学の最高峰ともいえる『朱を奪うもの』『傷ある翼』に続く三部作の最後を飾る谷崎賞受賞作。
著者等紹介
円地文子[エンチフミコ]
1905・10・2~1986・11・14。小説家、劇作家。東京浅草生れ。本名富美。国語学者の家に生れ、幼時より古典に親しむ。読本、歌舞伎など江戸文学にも造詣が深い。小山内薫に師事。戯曲集『惜春』刊。のち小説に転じ、「ひもじい月日」で女流文学者賞。著書に『女坂』(野間文芸賞)『なまみこ物語』(女流文学賞)『朱を奪うもの』(谷崎潤一郎賞)『遊魂』(日本文学大賞)ほかがある。芸術院会員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こうすけ
21
滋子三部作。読み終えました。朝ドラでは描かれない、女性のどろどろな、しかしとても真摯に正直に描かれた一代記。いまのフェミニズム文学とされるもののすべてが、この作品にすでに書かれているのでは。ゾッとしたり、グッと来たりしながら、彼女の人生に同行させていただきました。それにしても、円地文子は文章が良い。2024/05/24
ソーダポップ
19
自伝三部作、最終作。敗戦直後、宗像滋子は子宮癌の手術を受け、女としての機能を喪失してしまう。再発を恐れる彼女に、打算で結婚した夫と、学業を投げやりにして歌舞伎役者になろうとする娘との神経を磨滅するような生活が重くのしかかる。そんな日々の中、彼女は昔の恋人との交際に慰められ、小説を書くことの過程が描かれていた。そして、全てに情熱を燃やしていく。一人の女性の理性と相剋が描かれた感動の小説でした。2025/05/18
軍縮地球市民shinshin
14
三部作の完結作。三部作で円地は谷崎潤一郎賞を受賞した。昭和21年から物語は始まる。東大病院で子宮癌と診断された滋子は癌摘出手術を受ける。当時は10人に1人は失敗して亡くなったという。幸い滋子の手術は成功するものの、傷口が癒着して100日にわたって高熱にうなされ、体は衰弱する。終戦直後のことなので物資は乏しく、点滴はおろか暖房もなかったようだ。手術は成功しても気力で滋子は生き延びる。手術中も麻酔が切れて覚醒して医師たちの会話が聞こえたり、高熱でうなされていると亡くなった父、祖母、そして一柳の幻覚がみえるなど2023/05/18
バーベナ
3
不思議な詩的なタイトルだと思ったけれど、第4章でその意味が改めて深く刺さってくるような気がする。3部作の逆から読んでしまったので、遡ります。2016/10/18
amanon
3
かねてから待ち望んでいた三部作の最終作。本作で一番の鍵となるのは、娘美子との葛藤であろう。これまで著者の作品を読んでいて、度々娘との不和について語られているその背景が気になっていたが、ここで描かれる母娘との地獄絵図とも言える関係を垣間見て、かなり腑に落ちる物があった。そしてもう一つの鍵である柿沼との関係…片方の乳房と卵巣を無くした滋子と敢えて交わる柿沼は妻子持ちであり、しかもカトリック信者である。その何重にも背徳的な関係をある種の必然性を感じながら引き受ける柿沼に同感とも反感ともつかない感情を抱いた。2013/06/17