講談社文芸文庫
更紗の絵

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  • サイズ 文庫判/ページ数 272p/高さ 16cm
  • 商品コード 9784062901468
  • NDC分類 913.6
  • Cコード C0193

出版社内容情報

敗戦・復興の時代を滋味あふれる筆致で描く敗戦直後に再建された小さな学園を舞台に、青年教師吉野君を中心にして展開する青春長篇小説。混乱した当時の世相をも包みこむほのぼのとした独特の世界を創出。

内容説明

敗戦後の復興の時代―。学園を再建しようと努力する義父のもとで、中学主事を引き受けた青年教師・吉野君。進駐軍と旧軍需工場との交渉役を押しつけられ、できの悪い生徒のいたずらや教師同士のもめごと、喰いつめた友人の泣きごとにも向きあいながら、吉野君は淡々として身を処していく。時代の混乱と復興の日々を、独特なユーモア漂うほのぼのとした温かい筆致で描いた青春学園ドラマ。

著者等紹介

小沼丹[オヌマタン]
1918・9・9~1996・11・8。小説家。東京生まれ。1942年、早稲田大学を繰り上げ卒業。在学中より井伏鱒二を知り師事する。高校教員を経て、58年より早稲田大学英文科教授。54年上半期、下半期と「村のエトランジェ」「白孔雀のゐるホテル」がつづけて芥川賞候補となる。その後、日常に材をとりながらユーモアとペーソスのただよう洒脱な文体で独自の世界を築く。70年、『懐中時計』で読売文学賞。75年、『椋鳥日記』で平林たい子文学賞。89年、日本芸術院会員となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

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きりぱい

11
あー、いいなあ。ずっと読んでいたかった。疎開先から東京の焼け野原に戻り、義父の再建する学校に住むことになった吉野君の身辺事情。敗戦直後の余裕がない時代、何だかぱっとしない話のように思えるけれど、中学や大学で教え、翻訳もする姿が著者自身を思わせ、さばさばと毎日をやりすごす吉野君をとりまく空気が実に安穏としていてしみじみといい。人間関係の煩わしさもあれば、逆に縁に助けられたり、くすっとさせるのに、はっとして気をもませたり、つつがない暮らしのうちにも少しずつ移り変わるドラマが心地よく読める。2012/02/23

混沌工房

10
《図書館》『ビブリア』で『黒いハンカチ』を知って読み、小沼丹を他にも読みたくなって…。敗戦後、義父が立ち上げた学校に勤めることになった若き吉野君の奮闘記…でもすごく淡々としている。戦災孤児トミイのくだりとか、突っ込んだらもっとドロドロになりそうなのに、さらっと流しちゃったりして。そのせいか、ともすれば暗い話におちいって気が滅入りそうなのに、さらさらと読めてしまった。こういう文体は嫌いじゃない。印象に残っているのは、戦前、結婚前の奥さんをバスで送って…というなんてことないエピソード。2014/03/24

qoop

8
軍需工場があった郊外の町を舞台に、生々しく残る空襲の痕を避けつつ緩やかに始まった復興と、それを背景に新生活を始める主人公。戦後の混沌状況を示しつつ穏やかな日常を書いた長編で、さながら戦争という豪雨の後に広がった突然の晴天のよう。爽やかではあるが、あくまでも本作は著者をモデルにした私小説であり、澄んだ空ばかりではなくぬかるんだ足元も書かれている。戦後に庶民が体験した悲劇を織り込みながら、それでも事態を写しながらも感傷を入れない筆致は徹底している。2021/12/04

うた

8
戦後すぐに疎開先の信州から帰京した吉野君とその細君。住む家もないから元飛行機工場、今学校に間借りして、先生や臨時講師、通訳などをやりつつ、日々のよしなしごとや友人知人との交流を綴っている。随筆集を読んだときも思ったのだけれど、この穏やかで楽天的で時々厄介ごとに出くわして困ったような顔をしているのが、小沼丹の根っこであるように思う。久しぶりに満足のいく小説だった。また読もう。2020/10/19

桜もち 太郎

8
謳い文句は「青春学園ドラマ」とあるが、それとは全く違った印象を受ける。戦後間もなく主人公・吉野君の義理の父が学園再建に奮闘する。その義父のもとで中学主事として奮闘する吉野君。まさに学園ドラマ、と言いたいところだが、戦後日本の復興の風景を描いた側面が大きい。そして吉野君自身が病に伏せ、そこからの復活が描かれている。吉野君の更紗の絵はどんな模様を蠟染めみするのだろうか。これが主題となる作品だ。漱石の坊ちゃんをイメージして読み始めた作品だったが、それとは違う静かで穏やかな物語だった。2018/10/03

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