出版社内容情報
敗色濃い満洲を「日本の親爺」が飄々と行く戦争末期、持病を抱え友情と酒を味方に外地での人生の闘いを始めた木山正介――温かく飄逸味溢れる絶妙な語り口で、満洲体験を私小説世界に結晶させた傑作長篇。
内容説明
すでに日本の敗色は濃厚な昭和十九年暮れ、M農地開発公社嘱託として極寒の満洲に赴いた木川正介は慣れない土地で喘息と神経痛の持病に苦しんでいた。さらに、中立を破り突如参戦したソ連軍を迎え撃つため四十二歳にして軍に召集されてしまう。世渡り下手な中年作家が生き残りを賭け闘う姿をあたたかく飄逸味あふれる描写で綴った、私小説の傑作。
著者等紹介
木山捷平[キヤマショウヘイ]
1904・3・26~1968・8・23。小説家。岡山県の生まれ。1929年、詩集『野』を自費出版。33年、太宰治等と「海豹」創刊。34年、「青い花」同人。39年、最初の作品集『抑制の日』を刊行。44年、満洲開発公社嘱託として長春に赴き、45年8月、現地で応召。敗戦後長春で難民となる。この間の経緯は『耳学問』『大陸の細道』(芸術選奨)『長春五馬路』等に書かれる。96年、木山捷平文学賞創設(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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うりぼう
16
2011年11月に松丸本舗で購入。不思議な味の本。小市民的でありながら、終始一貫した正介のぶれないところが、カッコイイ。故郷のお母様のしたたかさが、息子に影響している。母の干し柿を大事に戦地の弟に届ける件は、センチになる。長いものに巻かれるのが、悪いわけではない。自分を見失うことが危ういのだ。「流れる星は生きている」の母親と対極の大らかさを持ち、遺骨になった時は、その時だという父であるより、文士気質。ふらふらと自分の生きる細道を往きつつ、満州の冬にうだうだとし、赤紙もない白兎に踊らされ、泥柳の花を枕とす。2012/01/16
私的古本レヴュウ
7
戦中の市井の人と木川正介こと作者自身とのやりとりが暢気で心温まるが、それでも戦争の悲惨さはよく伝わる。爆弾を背負って戦車に飛び込むという作戦の訓練や待機の様子の中にも、細かな自然の描写があり作者らしい。2019/12/23
軍縮地球市民shinshin
7
木山捷平の長編私小説。太平洋戦争が激化し、東京も空襲に晒されようとしたころ、主人公の正介は満洲の開発公社の嘱託として渡満する。ソ連の宣戦布告により、満州帝国の首都新京は戦場になり、正介は現地応召により「人間爆弾」としてソ連の戦車隊に特攻をしかけようとする、直前で小説は終わる。特攻する前に終戦となり、命からがら日本に復員してくるのだが、そこまでは本作では扱っていなかった。応召されても軍服もなく、空のビール瓶に爆薬を詰めて抱え込んで戦車を吹き飛ばすなんて作戦をよく関東軍は考えたものだと思う。2018/12/01
ハチアカデミー
4
B 本年最後の一冊。他の作品とかぶるエピソードもあるが、それでも十二分に楽しめる。大仰なイデオロギーや大義名分に捕らわれることなく、自分の生活の中から生まれる感情に赴くままに生きている。何度舐めても楽しめる、あじわいぶかい金太郎飴でした。2011/12/31
エドバーグ
3
約50年ぶりの再読。私小説ですが、ユーモアというかペーソスというか、一風変わった特徴があると思ったのは当時と同じでした。懐かしい。この本しか知見が無いので、別のも読んでみようと思いました。2024/03/21