出版社内容情報
欲望渦巻く<市>で紡がれる、幻想怪異譚。大晦までの僅かな期間に立つ「細蟹の市」。そこで手に入らないものはないという。異形の者たちが跋扈する市で、市守りのサザが助けたのは記憶喪失の少年だった…
内容説明
大晦日までの僅かな期間にだけ立つ「細蟹の市」。そこで手に入らないものはないという。ある者は薬を。ある者は行方不明の少女を。ある者はこの世ならぬ色を求めて、細蟹の市へと迷い込む。異形の者たちが跋扈する市で、市守りのサザが助けたのは記憶を喪った身元不明の少年・カンナだった。呪われた双子の少女は唄う。「ああ、不吉だ、不吉だ」「おまえがもたらす流れ、その循環は、混沌を呼ぶわ」…気鋭の叙情作家が紡ぐ妖しく美しい恋と謎。
著者等紹介
柴村仁[シバムラジン]
第10回電撃ゲーム小説大賞金賞を受賞し、受賞作の『我が家のお稲荷さま。』でデビュー
六七質[ムナシチ]
青森県出身。2008年よりフリーイラストレーターとして活動中(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
77
恒川光太郎氏の『夜市』に『千と千尋の神隠し』が混ざり合ったような「市」。街での法は適応されない無法地帯であり、この世ならぬものも集まる大晦日までの此岸でありながら彼岸である「場」。鬼子母神、エリザベス・バートリー、カッサンドラ、蛭子、オイディプス、よもつへぐい、水蜘蛛、織姫、一本足の意味、スーフィズムなどのモチーフを散りばめながらも人の釣り合わぬ業と報いをも描く。愚かなりしは惑いし人か、人から離れても心は優しきことであるか。それにしてもサザさんの優しさやカンナとカンナが選ばずにはいられなかったことが切ない2014/05/17
おかむー
68
独特な世界観で描かれるダークファンタジー。手に入らぬものはないという現実とは異質なルールが敷かれた細蟹の市を舞台に、幻想と世界の闇と残酷な混沌に彩られる物語は、不思議と不気味さや不快感はほとんどなく心地よい感触。『よくできました』。市の警護を担う赤腹衆サザに保護された記憶喪失の少年カンナを軸として描かれるため、細蟹の市を知ってゆくカンナと読み手が同調できるところが読みやすさに繋がっているね。細蟹の市が興る経緯やサザが赤腹衆で有り続ける理由など踏み込んで欲しいところだが、そこをあやふやにするのもひとつの手か2014/08/24
ひめありす@灯れ松明の火
46
赤い提灯が揺れている。夜宵ヶ淵の不思議な市。あらゆるものが存在し、あらゆるものが売り買いされるその市の中で、少年だけは自らの価値を……具体的には自分の名前と記憶を忘れていた。生臭くも瑞々しい水の匂いを放つ少年は赤腹衆の男に拾われて、おどろおどろしくも妖艶なその市の中で、次第に自らの価値を得る。カンナという名前、大好きなザザ、細蟹様の神殿に住まう初恋の少女。いくつもの経験、恐怖、後悔と恋情。一つ得るたびに、何物でもなかった少年は一歩先へ歩き出す。それは、与えられて得るのではなく、自ら決めた己の行き先。2012/02/04
F
29
夜宵ヶ淵の小島で大晦までの短い間だけ立つ細蟹の市。仮面を被った異形が蠢き、何でも手に入るというこの市に、或る者は薬を、或る者は行方不明の少女を、或る者はこの世ならざる色を求めて迷いこむ。ある日、市守りのサザは記憶を喪った少年を助ける。少年の仄かな恋に因習が影を落とし、人ならざる存在は混沌を誘う。織女が紡いだ絡みあう糸の中心にあるものとは何か。市に囚われた者たちの縁が紡ぐ、怪しく美しい物語。斜に構えて読んでいたものの、いつの間にか民俗的モチーフを散りばめた、この世界観、そして恋と謎にどっぷりと嵌っていた。2011/11/14
ポラリス
27
ああもう...面白かった...!たまらなく魅力的で御伽噺の様な世界観に冒頭から惹き込まれました。日の入りと共に始まり日の出と共に終わる、売っていないものはないとまで言われている妖しさと謎に包まれた『細蟹の市』。1冊を通して少しずつ少しずつ紐解かれていく市の深みにどんどん心を絡め取られ辿り着く真実。そして本文の構成によって感じる奇妙な違和感からの解放と共に、自分が著者に惑わされていた事実に気付きます。ミステリー要素も含まれている幻想怪奇譚。妖しく美しく大満足な1冊でした。2017/08/06