内容説明
ロシア帝国を震撼させた『カラマーゾフ家の父殺し事件』から十三年、内務省の特別捜査官となった次男イワン・カラマーゾフはある確信を抱いて故郷に舞い戻った。真犯人は異母弟スメルジャコフの他に必ずいる、と。再捜査が開始されるや否や、第二の殺人が起こる。世界文学の金字塔に挑む江戸川乱歩賞受賞作。
著者等紹介
高野史緒[タカノフミオ]
1966年茨城県生まれ。茨城大学卒業。お茶の水女子大学人文科学研究科修士課程修了。1995年、第6回日本ファンタジーノベル大賞最終候補作『ムジカ・マキーナ』でデビュー。2012年『カラマーゾフの妹』で第58回江戸川乱歩賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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るーしあ
132
この作品は原作「カラマーゾフの兄弟」を知らなくても本当に楽しめるのだろうか? 未読の読者のために簡単に原作の内容は説明されるが、あれではこの作品を本当に理解するには足り得ない。やはり原作を知っておくことが最低条件。率直な感想としては実に良く出来ている。原作の重箱の隅をつつくように粗を見つけミステリー作品に仕上げた。犯人の意外性もある。何より評価したいのは、すっとカラマーゾフの世界に張り込める点。しかしたまに作者視点になる「前任者は~」のくだりが残念。一気に現実世界に引き戻される。惜しいな。2015/03/13
ゴンゾウ@新潮部
109
「カラマーゾフの兄弟」を読んだ直後にこの作品を読みました。おかげで原作でもやもやしていた箇所が繋がってすっきりした。ドストエフスキーの書き残した謎を現代の科学捜査の視点も加えて鮮やかに蘇らせている。ドストエフスキーの構想がどうであったか別として良く描かれていると感じました。この作品を読むと原作がとても良く考えられていたと思います。2018/05/02
夜長月🌙新潮部
72
ドストエフスキーは「カラマーゾフの兄弟」をニ部構成で執筆しようとしていて第二部は事件の13年後が舞台となる予定であったことはよく知られています。本書はその完結編です。時は19世紀末。ホームズが活躍していたり、ロケットの父、コンピュータの父が生きていた頃です。第一部を基にする制約の中でこれらを交えた大胆な発想が光ります。2022/01/27
優希
66
ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を自己流に解釈したような作品という印象です。ささやかなエピソードも丁寧に拾っているので、アナザーストーリーを読んでいる気分になります。違和感を感じる箇所もありましたが、新たなカラマーゾフとして読むことができました。2020/07/23
神太郎
66
かなり前に『兄弟』を読んだのならと言われるも、読んでなかった。文庫化してたのねという事で手に取る。あくまでもあり得たであろう第二部(13年後の物語)なので、正統的続編という立ち位置ではなく結末含め可能性の一つ。だが、良い出来。悪くない。なるほど、確かに言われてみればドストエフスキーの語りの端々まで意識を向けたことってあまりなく、その違和感に徹底抗戦した著者の健闘に拍手。所々SF要素では?という突っ込みも折り込み済みって言うのだから流石。ここまでいじっても物語が動くのだから原作『兄弟』の完成度がよい証拠。2020/01/16