出版社内容情報
幼い頃みんなで見つけた謎の生き物レワニワ。同僚以上の仲だったのに何かの事情で心が離れてしまったティアンに、俺の想いを届けて。
幼い頃みんなで見つけた謎の生き物レワニワ。同僚以上の仲だったのに何かの事情で心が離れてしまったティアンに、俺の想いを届けて。
内容説明
アガタは派遣先で再会した小学校の同級生ティアンに惹かれていく。が、町村桂子という日本名で「統括主任」の肩書きを持つ彼女は、好意を示しつつも「貧乏人同士は付き合えない」と言う。そんな彼女が同じベトナム系の女友達と会ってから様子が変になり、会社まで辞めてしまう。アガタの思いは届くのか?物語なんだけどリアルな恋愛小説。
著者等紹介
伊井直行[イイナオユキ]
1953年宮崎県延岡市生まれ。作家、東海大学文学部教授。慶應義塾大学文学部卒業。’83年「草のかんむり」で群像新人文学賞を受賞して小説家デビュー。’89年『さして重要でない一日』で野間文芸新人賞、’94年『進化の時計』で平林たい子文学賞、2001年『濁った激流にかかる橋』で読売文学賞をそれぞれ受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
多聞
16
日常と非日常の中間にある空間を描写した作品は古今東西から数多く存在するが、伊井直行の描くそれは現実とも嘘ともとも判別がつかないホラ話の佇まいと似ている。虚実の割合のバランスの良さが妙に心地よく、ついつい手にとらずにはいられない魅力は、デビューから変わることなく健在だ。 派遣社員のアガタと派遣先の上司で小学校時代の同級生だったティアンとの恋模様を軸に、ワーキングプア、難民問題、ひきこもり、自殺、家族問題などの複数のテーマが重なり、陰惨さを伴いながらも魅力的な登場人物たちとレワニワの存在で相殺される。2012/05/17
ハチアカデミー
10
B+ 現代を活きる大人の為のファンタジーであると同時に、現代社会の問題に深く斬り込んだ傑作。願いを叶える謎の妖精レワニワは、主人公の小学校時代のホラ話の登場人物。そのレワニワを軸に、同級生たちの現在の生活が再び交錯する。人間の存在意義を、「愛」という相互関係ではなく、「恋」という一方的な思いとしている点が非常に奇特。また、仕事とは、家庭とは、人間関係とは、と、現代社会が抱える問題に小説としてひとつの答えを見出そうとしている。軽い文体でありながら、空虚感の中でもがき、精一杯生きることの悲哀と快楽を堪能。2012/09/18
佐倉
6
村田沙耶香の書評から。真綿で締め付けられるような、でも不快ではない。そんな読後感。社会の中で生きてはいるけれど居所を見つけられない、あるはずなのに落ち着かない。そんな人々の物語が淡々と綴られる中に現れる非現実的なレワニワ。現実の中で生きるには『自分は何者かである』という嘘に浸らなければならない。会社員であるとか難民であるとか……でも「世にある言葉では伝えられないこともある」。レワニワは仮に恋と名付けたがそうすることで消えてしまう物もある。それを大切にしたいがためにアガタたちはそれを恋とは呼ばないのかも。2022/12/06
もりの
4
面白かったのにレビュー数少なくてビックリ!もっと評価されてほしいと思う。不思議な世界観だった。格差があって引け目があっても別にいいじゃんね。2023/12/01
justdon'taskmewhatitwas
1
心地よいミステリとして読んだ。途中に会社とボランティア、営利と非営利の話がある。人を探して異界を彷徨う中で報酬の授受があれば「探偵モノ」だったのかも? でも大抵の探偵さんの謎解きは営利度外視になっちゃう訳で、ミステリの根っこは(僕が好きな理由も)主人公がレワニワに願ったものと同じだという気がします。2016/07/30