内容説明
09年6月、日本中が注目するなか、足利事件の菅家氏が17年ぶりに千葉刑務所から釈放された。著者は94年から「現代」誌上で無実を訴え続け、この本によってすでにそれを証明していた。なぜ足利事件のような悲劇が起きたのか。綿密な取材で、その裏に潜むものを解き明かし、釈放のきっかけとなった著作。
目次
控訴棄却
第1部 少なすぎる証拠(疑問;奇妙な供述;再現;DNA鑑定;判決)
第2部 犯人でなければ困る(捜査;精神鑑定;逮捕;自白;闇)
叫び
著者等紹介
小林篤[コバヤシアツシ]
1954年生まれ。早稲田大学卒(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ころこ
43
DNA鑑定と自白の信憑性が問題になった30年前の冤罪事件だが、清水潔の取材とは異なる観点と印象を持つ。被疑者となった菅家氏の自供が「羽毛のような軽さ」なのだ。警察に対して自ら詳細まで自供するが、裁判の証人尋問では検察と弁護士に対してはまたそれぞれ違うことを言う。本人の気持ちは「ついしゃべっちゃった」という感じらしい。彼はなぜそうなのかというと、境界知能にあるからだ。この30年で社会的弱者に対する政策と社会の視線は醸成された。しかし昔はそうではなかった。第7章からは彼の生い立ちが書かれている。世界の片隅でひ2025/06/13
肉尊
3
冤罪事件が何故起こったのか。その理由が多角的に推察されています。DNA鑑定の黎明期であったため鑑定は科学的根拠に基づいた絶対的なものとする風潮、住民の不安、警察の威信、予算問題など。裁判の中で、被告人は知能的に低いとみなされ、非常にプライベートな性的問題まで取りあげられます。被害者遺族の憎しみの対象とされ続けた本人は、被告人家族に対し自らの無実を訴え続けていきます。その叫びだけが真実であり、あとは全て虚像なのでした。人々の心の闇が作り出したこの冤罪という犯罪を二度と起こさないように我々ができることは?2016/02/26
Ikuto Nagura
3
「捜査官の執念」「科学捜査の勝利」そんな修辞の正体は、何十年も前の“島田事件”や“狭山事件”から何も変わらない、知的障害者への差別による予断の糊塗に過ぎなかった。菅家さんの人生の破壊だけでなく、真犯人による再犯まで招いた責任は、警察も検察も裁判官も、そして我々も問われない。控訴審の傍聴席で老婆が高木裁判長に放つ「能力が低いのは、どっちだと思う」という辛辣な問いは、私自身にも突き刺さる。菅家さん逮捕による事件解決に歓喜した癖に、菅家さん冤罪に怒る矛盾の根源は、私たち自身の能力の低さと差別意識に由来するのだ。2014/11/16
キミ兄
3
連続する幼女殺人事件により地域からの犯人逮捕のプレッシャーが掛かったことが、捜査当局の判断を狂わせたのか。自分の意思で自白できない人がいることも認識が本当になかったのか。冤罪はえてしてそういうものだろうが、国の仕組みが正義を守れないのは本当に怖い。☆☆☆☆。2014/04/30
gerumanium
3
警察官や裁判官、精神科医はそれぞれ人生のなかで経験を積み重ね事件のパターンを見出す。事件をめぐって繰り広げられる警察、弁護士、精神科医の妄想合戦はくだらない標語のごとく画一的だった。コミュニケーションもほとんど標語の連鎖に近い部分が存在する。だが、菅家さんはそこからはみ出る人間であった。この事件は、えん罪に関する我々の警鐘だけでなく、常にコミュニケーションが認識によって歪められていることの必然性さえも明らかにしてしまうから恐ろしいのだと思う。是非多くの人に読んで頂きたい2010/12/24
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