内容説明
希望を失い、にわか地上げ屋となった中年男。路地裏の古アパートに居座る奇妙な男と酒を飲めば、喪失感に満ちた過去へと意識は引き戻される。死んでしまった同棲相手や裏切られた友人。陰陰滅々とした雨の向こう側に、生の熾火は見えるか。第123回芥川賞受賞作。受賞後第一作「ひたひたと」を同時収録。
著者等紹介
松浦寿輝[マツウラヒサキ]
1954年東京生まれ。小説家、詩人、映画批評家。現在は東京大学大学院総合文化研究科教授。2000年に『花腐し』で第123回芥川賞を受賞
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
175
2000年上半期芥川賞受賞作。選考委員たちの選評はかならずしも好意的ではない。作中の登場人物伊関との関わりをどう見るかによって評価が分かれそうである。それまで主人公であり物語の語り手でもある栩谷と伊関とは、まったく接点を持っていなかったのだから。また、栩谷の回想の中にしばしば現れる祥子にしても、相互の精神的な紐帯は希薄だ。つまり、栩谷はずっと孤独の中にいて、今はじめて思索することでそのことを確認したのだろう。小説のアイディアとしてのマジックマッシュルームもまた評価を分けそうだ。この小説の特徴ではあるが。2013/10/01
ω
56
久々の芥川賞(2000年)📕 東大卒の詩人、小説家、フランス文学者。読んだ後で「な〜るほど。頭が違うわ」と思っちゃった😹 アテのない男に危険マッシュルーム🍄など出てきて…分からないまま終了|・ω・`)。。難しいよぉ〜。同時収録の「ひたひたと」の方が読み物としては面白かったω 時代もあったのかな。2022/11/08
たぬ
32
☆4 芥川賞受賞作を読もうシリーズ。この吹き溜まり感…田中慎弥や西村賢太の芥川賞受賞作を思い出した。アパート内の最初の描写から伊関はてっきりデイトレーダーかと思ったらきのこか。ヤバイきのこか。伊関もアスカも栩谷も刹那的だなあ。明日死ぬよと言われても特に焦らず淡々としてそう。併録の短編もこれまたじめっとしてる。2022/06/28
石橋陽子
22
著名は卯の花腐しという万葉集の和歌からきている。四月頃、卯の花を腐らせるように降り続く長雨を言う。梅雨のこの時期に読むと一層闇深さが押し寄せてくる。なんとも暗い臭いのあるじっとりとした小説である。人間はいずれ死ぬ。死んだら腐敗して、悪臭を放つ。そんなことが分かりきっているのに今を生きる。生きるとはだるいこと。気だるさに紛れて人は死んでいく。だからといって何も残らない。映画化されているが、この世界観をどう表現されているのだろうか。近々味わってみたいと思う。芥川賞受賞作。2024/06/26
かふ
21
映画『花腐し』を見て原作を読みたくなったのだが、映画とは違っていた。映画の方がセンチメンタルで原作はもう少し観念的な感じなのかと思った。『ひたひたと』は芥川賞受賞後の作品で、これは永井荷風『濹東綺譚』を連想させる幻想小説で「洲崎パラダイス」という今は無き花街の彼岸にさまようような話。東京をさまようというモチーフがすでに荷風の頃のようではなく、川は暗渠となっている観念世界なのか。東京の町は歌舞伎町でも池袋でもネオン輝く夢の島だとする平成トーキョーというイメージ。映画は昭和ノスタルジックすぎたような。2024/02/21
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