内容説明
「在天願作比翼鳥 在地願為連理枝」白居易の傑作「長恨歌」に歌われた玄宗皇帝と愛妃・楊貴妃。寵愛をほしいままにし、権力さえも手中にした貴妃の波瀾に満ちた短い生涯。時が移っても、変わらぬ人間の業を絢爛な絵巻のごとく流麗に描き出す。唐代の壮大な叙事詩にして、今なお熱く胸を打つ傑作長編小説。
著者等紹介
井上靖[イノウエヤスシ]
1907年北海道生まれ。’32年、九州帝国大学法学部英文科を中退後、京都帝国大学文学部哲学科に入学し美学を専攻する。’36年、京都帝国大学を卒業し毎日新聞大阪本社へ入社。「流転」で千葉亀雄賞受賞。’50年「闘牛」で芥川賞受賞。’51年、毎日新聞社を退社。’58年「天平の甍」で芸術選奨文部大臣賞を受賞。’59年「氷壁」で芸術院賞を受賞する。その後も毎日芸術大賞、野間文芸賞、読売文学賞、日本文学大賞などを受賞。’76年文化勲章を授与される。多くの傑作を残す昭和の偉大な小説家である。’91年1月逝去
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
399
私の楊貴妃に対するイメージは、もっぱら白楽天の「長恨歌」によるものだけであり、そこからすれば、楊貴妃はなよやかなばかりで主体性の欠如した存在のようであった。ところが、井上靖のこの作品では、玄宗皇帝をも掌中に収める強い女性(ただし則天武后のようなタイプではない)として描かれている。どこまでが史実であり、どの程度に井上靖の創作がなされているのかは私の知識を超えているので何とも 言えないのだが。安禄山の造形にしてもしかりである。いずれであっても、ここに描かれたのは楊貴妃の16年間の夢であったのだが。2020/01/25
遥かなる想い
86
楊貴妃という史上有名な女性を知りたい、と思って読んだ。残念ながら、楊貴妃という女性があまり伝わってこなかった、というのが正直な感想だった。知識が乏しかったせいかもしれないがが、もっと華やかで哀しい女性に 描いてくれたら、入り込めたかもしれない。
assam2005
22
楊貴妃という名前はよく聞くけれど、その生き方をあまり知らず、手に取ってみた。読む前のイメージは「ただ美しく生まれたが故に、玄宗皇帝に見初められ、権力の流れに翻弄された」姿と違い、「権力を利用し、自分の意思でのし上がっていく」姿は、この作者の演出なのか。女性の強かさ、ズルさ、浅はかさが浮き彫りにされたように思う。ちょっと読みづらくはありましたが、何とか読了。贅沢のツケは命をも奪う。人が歴史を顧みて学ぶということを習得したのは、いつの時代からなのだろうか。2020/04/02
おMP夫人
21
井上靖作品を読むのは「額田女王」以来2作目ですが、時の権力者に愛された女性を描いた作品という点では同様でありながら、この楊貴妃伝はかなり趣の違う作品だと感じました。解説でも触れられていますが、心理描写が少なく、淡白すぎるくらいに淡々と話が進められていきます。一見欠点のようですが、これがフィクションでありながら歴史を見るかのような感覚にする効果を生んでいると思います。さらに比較すると、額田女王は自分の役目に誇りを持った女性の物語で、楊貴妃伝は自分に与えられた役割に覚悟を決めた女性の物語。という気がします。2013/06/24
ミユ
10
玄宗皇帝の寵愛を一身に受けた世にも名高い美女・楊貴妃。名前とちょっとしたエピソードは知ってるものの実は詳しく知らなかったのでわかりやすく読みやすい一冊でした。楊貴妃がメインというより、周囲の人間関係やその当時の権力図、時代背景なども描かれてるのがありがたい。しかしどこでもそうですが権力争い(寵愛争い)というのは一門が全力で勝ち抜かなければならない恐ろしい世界です。特に古代中国って負けるとだいたいのケースで一門皆殺しなんですね。