内容説明
江戸小伝馬町の牢獄に勤める青年医師・立花登。居候先の叔父の家で口うるさい叔母と驕慢な娘にこき使われている登は、島送りの船を待つ囚人からの頼みに耳を貸したことから、思わぬ危機に陥った―。起倒流柔術の妙技とあざやかな推理で、獄舎に持ちこまれるさまざまな事件を解く。著者の代表的時代連作集。
著者等紹介
藤沢周平[フジサワシュウヘイ]
昭和2年12月26日、山形県に生まれる。昭和24年3月、山形師範学校卒業。昭和48年1月、「暗殺の年輪」を「オール読物」(三月号)に、同作品で第六十九回直木賞を受賞。平成7年紫綬褒章受章。平成9年1月死去
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感想・レビュー
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yoshida
169
羽後で医術を学び江戸に住む叔父のもとに住む立花登。登を待っていたのは、口うるさい叔母と驕慢な従妹。開業医の叔父は繁盛せず、監獄医も兼務。登は監獄医として働き始めるが、場所が場所だけに様々な事件が起きる。登が柔術の名手であり、刀ではなく柔術で捕物を行うのが新鮮。なかなかほろ苦い短編が詰まっている。健気な妻や、働き者の娘に降りかかる災厄が哀切を生む。最終章で従妹が助かった時の登の対応が、藤沢作品でも珍しいと思う。叔母の口うるささと、金銭に細かい様子が叔父が家に寄り付かない理由として府に落ちる。安定の藤沢作品。2019/01/27
ひろし
105
久しぶりに藤沢周平作品を読んでみたくなり、読み友さんの感想を参考に本書を選んだ。お江戸下町の牢屋に勤める若き医者の卵が主人公の物語。この時代も現代の某国のように、牢の中の主みたいな者がいたようだし、囚人と役人のやり取りもあったようだ。これまで読んだ藤沢作品は隠し剣なと一陣の風が吹き抜けるような読後感であったが、本書は謎解き、アクション、色恋沙汰といろいろな要素が盛り込まれており、主人公が青年ということもあってか、生き生きとした印象を受ける。巻末に藤沢周平氏の年表が付いているということは、代表作なのだろう。2023/10/19
ふじさん
98
「雨上がり」は、島送りになる男の頼まれごとには思わぬ真実が隠されていた。「善人長屋」は、無実を訴える男の真相を探る中で、強盗事件を解決し、殺されかけた娘を救う。「女牢」は、恋人を刺した女囚の最後の願いに答える心優しき立花登がいる。「牢破り」は、従妹のおちえの誘拐騒動の顛末が語られる。江戸小伝馬町の牢屋には、様々な複雑な人間模様が渦巻いている。心優しい青年獄医立花登が、牢屋にいる罪人に優しさと温かさを持って、彼らの願いを叶えるべく柔術の技と推理の冴えで事件を解決する時代連作集の第一作。2022/12/21
Atsushi
72
七話からなる連作短編集。小伝馬町の牢獄に勤める青年医師・立花登が主人公。囚人から持ちこまれる悩みや相談ごとをあざやかな推理と得意の柔術で解決していく。ポイントは剣術ではなく柔術の使い手であるということだ。剣を持つ相手と闘う緊迫した場面に胸が躍る。従妹のおちえとの今後の展開が気になるところ。続編も読んでみたい。2018/11/11
goro@80.7
70
牢医者の青年立花登を主人公にした連作短編。藤沢周平と言えば時代小説家と言われるけれど、藤沢はハードボイルド作家なのではないかと改めて思える。小伝馬町の牢屋を発端として事件を解決してゆく登の姿を見て行くと強く思うようになった。事件の陰で泣く女たち。女たちを描く藤沢の眼差しは何処までも澄んで優しい。実は20代の時に人に勧められて途中までは読んだが途中で投げ出した。あれから幾星霜、少しは大人になって再度手にしたが、藤沢の深さが分らなかったのだな。卑しき街を行く探偵はここにも居るんだね~。さすがGOD藤沢です!→2016/12/13