内容説明
この世には不思議なことなど何もないのだよ―古本屋にして陰陽師が憑物を落とし事件を解きほぐす人気シリーズ第一弾。東京・雑司ケ谷の医院に奇怪な噂が流れる。娘は二十箇月も身籠ったままで、その夫は密室から失踪したという。文士・関口や探偵・榎木津らの推理を超え噂は意外な結末へ。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Tetchy
737
一読、実に真っ当な本格ミステリというのが率直な感想だ。この京極堂こと中禅寺秋彦の「憑物落とし」は興趣くすぐる演出で新たな本格という風な捉えられ方をしたが、実は黄金期ミステリ時代への原点回帰的作品なのだ。理詰めで構築される博覧強記の京極堂の薀蓄語りとどこか情緒不安定な“信頼できない”語り手である関口の妄想めいた語り口が程なくブレンドされており、デビュー作とは思えない独自の作品世界と文体を既に確立しているのが素晴らしい。実に私の好みと合った作品だが、メインの謎に関する真相はいささか期待はずれ感が否めない。2010/04/07
ヴェルナーの日記
668
この小説は、推理小説として稀有な存在だ。冒頭から第2章に至る90頁ほどまで、事件のあらましが殆ど語られない。ただ京極堂の文芸批評論の薀蓄を語っているだけなのだ。しかし、その内容が面白い。近代文芸論を解体している。京極堂風にいえば、憑物落ししているのであって、つまり推理モノ好きな読者(推理モノ憑き)に対して、憑物を落としている…… 恐れ入谷の鬼子母神だ。読感は、『新世紀エヴァンゲリオン』をイメージしてしまう。清純な少女と恋に落ちた女と子を持つ母という3つの性が、互いに責めぎ遭っている。まさに業と呼ぶべきか。2016/01/13
absinthe
442
混乱期をやっと乗り越えた戦後日本。古い日本の伝統的な神秘的世界観と、現代の科学的世界観を上手に融合させたミステリー。主人公、京極堂の知識が次々と披露され読者を圧倒するが、流れは決して解りにくくは無い。登場人物はだれもがどこかひと癖あって興味深い。とても厚いので、手にとるには勇気がいるが、この手のミステリーが好きなら後悔はしないだろう。解説するまでもない有名小説。2015/10/21
ehirano1
421
こりゃまたえらいモノを読んじまっただwww。ミステリー、民俗学、オカルトが絶妙に絡み合い、戦後の精神的荒廃がその雰囲気を担当する完成された作品だったと思いました。しかし一番愉しかったのは、京極堂と関口の哲学的やり取り。2025/07/12
nobby
316
「この世には不思議なことなど何もないのだよ」ほぼ10年振りの再読は聞いてニヤリな言葉から。その分厚さが多岐に渡る説明で溢れるのは覚えていたが、その理解が心地よかったのは成長の証か(笑)二十箇月も身籠っているという娘、それは失踪中の夫の呪いなのか…個性的で思い出す都度笑える面々の登場に加え、不可思議な雰囲気にのめり込むこと必至。そしてラスト訪れる驚愕!ありえないの一言になりかねない謎解きを、単なるキャラ付け思わせる薀蓄や設定で、ぐうの音言わさず補完する様が素晴らしい!2017/06/18