内容説明
社会にうずまく悪や欲望、苦痛や悩みなどがすべてとりはらわれた理想社会―喜怒哀楽の感情が抑制され、職業が与えられ、長老会で管理されている規律正しい社会―「記憶を受けつぐ者」に選ばれた少年ジョーナスが暮らすコミュニティーは、ユートピアのはずだった。けれども、理想の裏に隠された無味乾燥な社会の落とし穴に「記憶を伝える者」とジョーナスが気づいたとき、そこに暮らす人々が失っている人間の尊厳にまつわる記憶の再生を計ろうとする。二度のニューベリー賞受賞に輝くロイス・ローリーが贈る、衝撃的近未来ファンタジー。1993年度ニューベリー賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Gemi
28
かなり面白かった。本自体はそこそこ古いのだが、内容は全く古さを感じさせない。これは近未来のファンタジーなお話しで、過去に読んだ児童文学と設定は似ていたが、中でも読み易く読んでいてゾクゾクした。序盤は違和感を覚えつつも、こんな未来もあるのかなぁ…と納得しながら読んでいたが、主人公のジョナスが『12歳の儀式』を迎えた日からの内容が素晴らしかった。『職業任命』の予測はついていたが、まさかの『記憶を伝える者』の仕事内容。それまでのジョナスの人生が、比喩ではなく色褪せてしまった。そして急展開のラストには愕然とした。2016/01/14
neimu
24
かなり昔に読んだのでずっと感想を書かずに放っておいたのだが、映画化されると知ってなかなか感慨深い。20年ほど前の高校生の読書感想文の課題図書だった時代からすると隔世の感か。いや、当時の選定委員の目の付け所の良さか。こんな倫理的にものすごい問題を含む近未来SF、いいのか?と、当時既に大人だった自分としては思ったんだが。人口問題、老人介護・教育、戦争、確かにどの切り口からでも映画は作れるが、公開時が楽しみだ。記憶を伝える側も受け継ぐ側も(レシーバー)大変なわけだが、原作を原語でチャレンジしてみるかな。
仮ッ子
17
誰もが平等で、混乱も不安もない、すべてが〈画一化〉されたユートピア。だが、その世界を得るために払った代償はあまりにも大きかった・・・。経験の宝庫である歴史に蓋をしてはいけない。目をそらしたくなる記憶も多いだろうけれど、想像力を働かせながら、我がものとして歴史を辿れば、人は大きく成長するはずだと思う。私ももっと関心持たないとなぁ。2009/09/03
ぱせり
15
記憶ってなんだろう。経験であるだけでなく、歴史でもあり、情報でもあり、そこから生まれる感情であり知恵。記憶がない、ということは、そこに伴う感情も知恵も消える、ということ。大多数の幸福・安全を追求して、その都度、暗いもの、危険なものに蓋をしていたら、幸福の幅もどんどん狭くなっていくのではないだろうか。物語の中に、たとえようもなく美しく表れるのは「色」と「音楽」。それを感じることができるということは大きな「驚き」かもしれないと思いました。2009/09/24
無識者
11
英語の本を読むのが1年ぶりぐらい。久しぶりだったので児童文学から入った。よみやすい。徹底管理されたコミュニティーのなかで主人公が12歳(数え年)のセレモニーで特別な役職(receiver)に選別され、前任からいろいろなmemoryを受け取っていく。印象的だったのが「選択肢がないのはかわいそうだ」といったん思うのだけれど、直後に「いや、間違った選択肢をとった場合もっと悲惨な目に合う」という風に言うところ。2015/04/20