出版社内容情報
エロで生れてエロ育ち、私しゃ断然エロ娘……。昭和モダンは軽佻浮薄、発禁なんてなんのその。いまこそ歌謡史の空白を埋め、歌い踊れ「昭和初期は暗い時代だった」というイメージには根強いものがあります。
ただ、戦前期の日本を暗黒だったと言いきれるかというと、そうでもありません。時代はつねに多面的で翳があれば光もあります。
昭和初期はエロ・グロ・ナンセンス時代とのちに言われるようになります。出版界や新聞紙面のエロの跋扈は、厳しい思想弾圧によって国民に不満や圧政感が溜まらないようにするためのガス抜きではないか、との観測は当時からあったにせよ、芥川龍之介の謂う「ぼんやりした不安」を裏返しにした刹那的な享楽主義を軍縮とリベラル思想が後押しして、時代は暗黒どころか軽佻浮薄をきわめたのです。
無責任にもほどがあるエロとジャズとゴシップの垂れ流し状態は誰にも手がつけられません。新聞もラジオもあわよくば享楽的な方向に流れよう流れようとする。そうした世相を写した流行小唄や映画主題歌が雲霞のごとく出現しました。
エロで生れてエロ育ち
私しゃ断然エロ娘
こんな歌が平然と歌われていたのです。主義や思想に敏感な学生を息子にもつ親もまた「テロよりはエロ」「赤色に染まるなら桃色のほうがマシ」などと言い出す始末。閉塞感のなかで必要以上にクローズアップされた“エロ”という概念があらゆる分野に浸透する……。
そもそもはやり唄とはどの時代にあっても世相を写すものですから、それはけっして珍しい現象ではないといえます。ただ、昭和初期がユニークなのは、その内容がエロに特化し、一時はレコード歌謡がエロ一色に塗り立てられたことにあります。
エロ・グロ・ナンセンス時代に大量に作られ消費されたエロ歌謡群は、いつしか忘却の底に沈みました。まさに日本歌謡史におけるミッシング・リンクといってよいでしょう。それらを拾い上げ、つなぎあわせ、戦前の日本人が感じたエロを、その誕生から滅亡までたどってみる……。それが本書の目論見です。
第一章 三位一体の神話
1 十一月二十七日はエロ記念日
2 『現代猟奇尖端図鑑』
3 日本歌謡史のミッシング・リンク
第二章 跳躍するモダンガール
1 すばらしき昭和三年
2 オヤ尖端的だわね
3 ガール尽くし
第三章 エロ歌謡ブームの諸相
1 ねえ興奮しちゃいやよ
2 ジャズソングと演芸
3 歪曲され、消費されるイメージ
第四章 昨日チャンバラ、今日エロレヴュー
1 夢の浅草
2 エロとジャズは大阪から
3 イットってなんでしょう
第五章 発禁オン・パレード
1 エロの次はミリだ
2 改正出版法とレコード検閲
3 最後の輝き“ねェ小唄”
など
毛利 眞人[モウリ マサト]
著・文・その他
内容説明
関東大震災から日中戦争へと至る時代。モボとモガが闊歩し、ラジオとレコードの音が巷に満ちるとき、刹那的な享楽主義が都市を覆い、眩い光彩を放った。テロよりエロ!アカより桃色!あまりにも不埒な歌詩と軽佻浮薄なメロディーからは、人びとの欲望と思惑、権力への反発と諦念が聞こえてくる。日本歌謡史のミッシング・リンクを明らかにする一冊。
目次
はじめに 黒い円盤のなかには
第1章 三位一体の神話
第2章 跳躍するモダンガール
第3章 エロ歌謡ブームの諸相
第4章 昨日チャンバラ、今日エロレヴュー
第5章 発禁オン・パレード
むすびに エロ歌謡は死なず
著者等紹介
毛利眞人[モウリマサト]
1972年生まれ。音楽評論家。高校時代より地元紙にコラムを寄稿。大阪芸術大学中退後、中古レコード店勤務を経てライターとなる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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