哀しすぎるぞ、ロッパ―古川緑波日記と消えた昭和

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  • サイズ A5判/ページ数 445p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784062189804
  • NDC分類 775.2
  • Cコード C0090

出版社内容情報

「日本の全盛期が僕の全盛期ですかな」時代の喝采を一身浴びた喜劇王初の評伝。饒舌な日記が語りかけてくる戦中昭和の奇妙な光と影「此の日記、なまじの小説よりは、後年読んで面白いこと受け合ひなり」(昭和二十年二月)。
1903年に男爵家の六男として生まれ、戦前戦中戦後と膨大な日記に生涯を書き記し、1961年舞台からそのまま入院先で病死した「喜劇王」古川ロッパ。大学在学中に映画雑誌の編集者となり文藝春秋社に入社するも、「声帯模写」の才をかわれ喜劇役者として時代の寵児となる栄光の戦前期。若き日の菊田一夫を見出し数々のヒット作を連発しながら戦時下を生き抜き、戦後は「エノケン・ロッパ」と後塵を拝する凋落の日々。稀代の二枚目・長谷川一夫がロッパを終生「師」と仰いだワケ、日本人喜劇役者初のハリウッド進出の舞台裏、黒澤明作品『七人の侍』キャスティングのもうひとつの真相──等々、谷崎潤一郎、武者小路実篤、徳川夢声、火野葦平、小林一三、森繁久彌、柳家金語楼の素顔まで、彼の日記が物語るのは同時代人の赤裸々な肉声と日々の営みであり、そこに見えてくるのは日本の爛熟と崩壊、そして再生への希求だった──。日記研究家として名高い著者が、史実とは異なる市井の時代模様を丁寧な筆致で浮き彫りにする“昭和の実録”渾身の評伝。

「七時半起き、四谷から砧へ。三島の宿の撮影してると、伏水が大変な事が起ったさうだと言ふ、今朝四時六時の間に、五・一五事件以来の重大な暗殺事件あり、首相蔵相等五、六人、軍部の手に殺されたと言ふ。その後流言ヒ語しきり、何処迄本当か分らず、無気味な気持のまゝ、撮影を続ける」(二月二十六日)
 首相は岡田啓介、蔵相は高橋是清、二・二六事件である。
 三島の宿の場面を五、六カット撮り、八時には徳山たまきとともに撮影所を出たが、渋谷周辺までくると戦車の姿を見かける。
「こんな日は、家へ帰って早く寝るのが一番でしょう?」と、ロッパは語りかける。
「そうだね」と、徳山は答える。
「こんな時だけ、家がいいんじゃない?」
「そうだね。でも、こういうときいいとこが、ほんとのいいとこさ」──本文より

序 章 東京最後の舞台/蘇るロッパと日記/大胆に削除された日記/悩ましき記述、女性関係/日記は歴史への望遠鏡
第一章 華麗なる一族の喜劇役者 一 ロッパ誕生 華やかなロッパの兄弟/徳川夢声との出会い/谷崎潤一郎に武者小路、宇野浩二/ほか 二 文士と役者の三叉路 トーキー出現/声帯模写の天才/素寒貧となる/ほか 三 宝塚の恥辱から浅草の夏へ 宝塚の恥辱/漂流するロッパ/喜劇王エノケン/ほか
第二章 東宝・古川緑波一座 一 「笑の王国」の不協和音 ロッパ日記の始まり/エノケンへの視線/アチャラカ/ほか 二 東宝のドル箱古川緑波一座横浜宝塚劇場の初舞台/叛乱の夜/当った、全く当った/ほか 三 「ロッパ若し戦はゞ」と戦争の始まり 盧溝橋の銃声/出征する人々/「ロッパ若し戦はゞ」/林長二郎事件/戦時下での正月 四 「ロッパと兵隊」と火野葦平 ロッパの悲劇/ロッパの行き詰まり/国民的作家火野葦平/ほか 五「髭のある天使」と興亜新劇団 ロッパ倒れる/興亜新劇団/ほか
第三章 戦時下の名作、名舞台 一 十二月八日の『男の花道』 菊田の代表作「道修町」/ほか 二 菊田一夫との別れ 『がしんたれ』の少年時代/荒れる演出と座長の横暴/ほか 三 ロッパの終戦ものがたり 水浸しの防空壕/隣人・鈴木文史朗/雪天の空襲/ほか
第四章 変わる時代、変わらぬロッパ 
一 一座独立と『東京五人男』 東宝との確執/上森子鉄の青春/『東京五人男』/ロッパ一座の独立宣言/ほか 二 人気凋落を告げる手紙 君の一座は利益がない/ゼネストとロッパ日記/エノケンとの合同公演/「ロッパ創まっての不入り」/額縁ショーと「肉体の門」/ほか 三 『三人は帰った』の見果てぬ夢 グレート・アポテュニティー/末期の水を一杯!/アグネス・キースと菅辰次/不安と興奮の日々/ほか
第五章 哀しき晩年、そして日記  一 「さくらんぼ大将」の運命の日 沈潜するロッパ/帝劇コミックオペラ「モルガンお雪」/ほか 二 ロッパの禁煙狂騒曲 禁煙騒動の始まり/「さくらんぼ大将」の遺産/『劇書ノート』と『ロッパ食談』/喜劇人協会設立/ほか 三 「おやじさんはもうでないほうが」 東宝ミュージカルス/菊田一夫への恨み/エノケンへの怒り/小林一三の死/森繁久彌の引退勧告
終 章 日記は俺の情熱、いのち


山本 一生[ヤマモト イッショウ]
著・文・その他

内容説明

「日本の全盛期が僕の全盛期ですかな」時代の喝采を一身に浴びた「昭和の喜劇王」初の評伝!あの戦争で日本人は何を失ったのか。「不機嫌な喜劇王」57年の生涯。

目次

第1章 華麗なる一族の喜劇役者(ロッパ誕生;文士と役者の三叉路;宝塚の恥辱から浅草の夏へ)
第2章 東宝古川緑波一座(「笑の王国」の不協和音;東宝のドル箱「古川緑波一座」;「ロッパ若し戦はゞ」と戦争の始まり;「ロッパと兵隊」火野葦平;「髭のある天使」と興亜新劇団)
第3章 戦時下の名作、名舞台(十二月八日の『男の花道』;菊田一夫との別れ;ロッパの終戦ものがたり)
第4章 変わる時代、変わらぬロッパ(一座独立と『東京五人男』;人気凋落を告げる手紙;『三人は帰った』の見果てぬ夢)
第5章 哀しき晩年、そして日記(「さくらんぼ大将」の運命の日;ロッパの禁煙狂騒曲;「オヤヂさんは、もう出ない方が…」)
終章 日記は俺の情熱、いのち

著者等紹介

山本一生[ヤマモトイッショウ]
1948年生まれ。近代史研究家、競馬史研究家。東京大学文学部国史学科卒業後、石油精製会社に勤務するかたわら、競馬の歴史や血統に関して執筆活動を展開、97年よりフリーとなる。伊藤隆東大名誉教授のもとで『有馬頼寧日記』の編集に加わり、その後は戦間期の日記を読み解く作業を行っている。2008年、『恋と伯爵と大正デモクラシー―有馬頼寧日記1919』(日本経済新聞出版社)で第56回日本エッセイスト・クラブ賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

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感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

駄目男

10
『古川ロッパ昭和日記全四巻』は昭和9年から晩年まで、各巻二段組900ページ前後と膨大なもので、これでも、一部行方不明のものもあり、更に9年以前のものは本人によって焼却されたとあるので、如何にロッパが日記魔だったかが良く分る。4百字詰原稿用紙で3万枚というから驚く。天才的な声帯模写として映画、芝居、ラジオと八面六臂の活躍から一転、落ちぶれ結核、糖尿病と全身を病に蝕まれながらも税金の滞納、借金と苦しむロッパ日記の変遷を見て行くと、知らずうちにも喀血しながら働くロッパに同情が集まり悲痛の面持ちになる。2020/08/15

Koki Miyachi

10
古川緑波。恵まれた境遇に溢れる才能で、膨大な日記を残し「喜劇王」として昭和を駆け抜けた男、ロッパ。日記を軸に書き起こされた本書は、表の記録としてのロッパと、生身の本音が絡み合いながら進行し、単なる伝記とは一線を画す迫力がある。強烈な個性を持つ才人の生々しい人生記。昭和の文化史を知る上でも優れた一冊。2014/10/10

浅香山三郎

8
文庫ではなく単行本で余り外で読めなかつたので、読了迄時間がかかつた。著者の山本一生さんは『日記逍遥 昭和を行く』といふ、かなり面白い日記読解の本を出されてゐる。また、伊藤隆さんの『歴史と私』でも言及のある書き手だつたので、期待して読んだ。まず驚いたのは、刊本のロッパ日記にかなり大胆な割愛のあること。如何にロッパ日記が大部かが分かる。後半は一気に読んだが、第4章以降の戦後のロッパの部分を読むのは、かなり辛い。ロッパの病気や、上森子鉄とのトラブルが無かつたら、彼はもう少し活躍しただらうと思はされる。2016/07/02

kokada_jnet

5
前著『日記逍遥 昭和を行く-木戸幸一から古川ロッパまで』でも、ロッパ日記を詳細に扱っていた山本一生氏が書いてくれた。ロッパ初の評伝、ありがたし。ロッパ日記原本と比較すると、晶文社版ロッパ日記は、元があまりに膨大な量であったため、大幅にカットして刊行されているとのこと。2014/12/02

tsukamg

4
ロッパといえば戦前から戦後にかけての日記が有名。昭和10年代から20年代をほぼ網羅しており、戦前戦後史の良き資料となっている。本書はロッパ日記に沿った、昭和史とロッパ伝。戦後、売れなくなっていく過程の日記に漂う悲壮感はまさに、哀しすぎるという言葉がぴったりくる。他のタレントが自家用車を持っているのに嫉妬するくだりなど、ため息が出る。戦後とは、ロッパが売れなくなるような価値転換だったのだ。逆算すれば、戦前とはロッパが売れるような時代だったのだ。昭和初期のエログロナンセンス時代とは、つまりそういう時代か。2015/03/26

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