マリーについての本当の話

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  • サイズ B6判/ページ数 175p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784062186698
  • NDC分類 953
  • Cコード C0097

出版社内容情報

ユーモアとエロスのトゥーサンが帰ってきた!Tokyo/Parisが舞台のロマンス。小説の幸福がここにある。息をのむ美しさ!あの灼熱の夜の陰鬱な時間のことを、あとから考えてみてわかったのだが、マリーとぼくは同時にセックスしていたのだった。ただし別々の相手とだが。あの夜、マリーとぼくは同じ時刻に――あの夏初めての猛暑で、突然襲ってきた熱波のためパリの気温は三日続けて三十八度を記録し、最低気温も三十度を下回ることはなかった――、パリ市内、直線距離にして一キロほどしか離れていないアパルトマンで、それぞれセックスをしていたのである。その夜、宵の内にせよ、もっと夜が更けてからにせよ、ぼくらが顔を合わせることになろうとは想像もできなかった。しかしその想像を超えた出来事が起こってしまったのである。ぼくらはなんと夜明け前に出会い、アパルトマンの暗い、散らかった廊下で束の間、抱きあいさえした。マリーがぼくらの家に戻った時刻から判断して(いや、いまや〈彼女の家〉というべきなのだろう、なぜならぼくらが一緒に暮さなくなってもう四カ月たつのだから)、またぼくが彼女と別れてから移り住んだ、手狭な2DKに戻った時刻から判断しても――ただしぼくは一人ではなく連れがいたが、だれと一緒だったかはどうでもいい、それは問題ではない――、マリーとぼくがこの夜、パリで同時にセックスをしていたのは、午前一時二十分から、遅くとも一時三十分ごろだったと考えられる。二人とも軽くアルコールが入っていて、薄暗がりの中で体をほてらせ、大きく開けた窓から風はそよとも吹いてこなかった。外気は重苦しく淀み、嵐をはらみ、ほとんど熱を帯びていて、涼気をもたらすというよりもじわじわと蒸し暑くのしかかってきて、それがむしろこちらの身体に力を与えてくれるかのようだった。そして深夜二時前のこと――電話が鳴った。それは確かだ。電話が鳴ったときにぼくは時計を見たからだ。しかしその夜のできごとの時間経過については、慎重を期したいと思う。何といっても事態は一人の人物の運命、あるいはその死にかかわっていた。彼が命を取りとめるかどうかはかなりのあいだ、わからないままだったのである。

ジャン=フィリップ・トゥーサン[ジャン=フィリップ トゥーサン]
著・文・その他

野崎 歓[ノザキ カン]
翻訳

内容説明

あの灼熱の夜の陰鬱な時間のことをあとから考えてみてわかったのだけれど、マリーとぼくは同時にセックスしていたのだった。ただし別々の相手とだが。その夜、マリーとぼくは同じ時刻に(略)、パリ市内の直線距離にして一キロも離れていないアパルトマンで、それぞれセックスをしていたのである。その夜、宵の内であれ、もっと夜が更けてからであれ、ぼくらが顔を合わせることになろうとは想像もできなかった。しかしそんな想像を超えた出来事が起こったのである。上品なエロティシズム、おしゃれなユーモア、かがやく生命力…「ぼく」が語る、彼女との大人な関係。いまフランスで最も重要な作家から届いた“本物の小説”。

著者等紹介

トゥーサン,ジャン=フィリップ[トゥーサン,ジャンフィリップ] [Toussaint,Jean‐Philippe]
1957年ブリュッセル生まれ。小説家・映画監督

野崎歓[ノザキカン]
1959年新潟県生まれ。東京大学教授。2000年、ベルギー・フランス語共同体翻訳賞、2001年、『ジャン・ルノワール越境する映画』でサントリー学芸賞、2006年に『赤ちゃん教育』で講談社エッセイ賞、2011年に『異邦の香り―ネルヴァル『東方紀行』論』で読売文学賞(研究・翻訳賞)を受賞。訳書多数。ジャン=フィリップ・トゥーサン作品すべての邦訳を手掛ける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ヴェネツィア

300
物語の冒頭で、いきなり死に遭遇するジャン=クリストフ。語り手である「ぼく」は、その後の経緯を直接経験する。その後は時間軸が戻って主として3つのエピソードが展開する。すなわち、ジャン=クリストフとマリーの物語。競走馬ザーヒルのエピソード。そして、最後は1年前と繋がるエルバ島でのマリーとぼくの物語だ。最後のエルバ島での事柄は再びぼくの直接体験だが、実に奇妙なことにそれ以外はぼくの想像裡で展開されるのである。では、タイトルにも言う"La vérité"(真実)は結局は叙述の中に於いてしかないのだろうか。⇒2017/05/03

こぽぞう☆

18
「ぼく」の一人称で話は広がる。マリーと「ぼく」との微妙な関係。馬とマリーとの繋がり。。「愛しあう」「逃げる」という前作があるのね。マリーとぼくの正体はそれで分かるのかしら?図書館で見つかったら読んでみよう。2016/04/09

きゅー

12
久しぶりのトゥーサン。今回も170ページほどど紙数は多くはないが、物語のスピーディーな展開と、意外な事件、男女の機微をアイロニカルに描いているなどトゥーサンの良さが発揮されているようだ。特に成田空港とその後の馬事件は躍動感に満ちており素晴らしい。こういう文章を書く作家だったかなと首を傾げてしまうほど、その場面が強烈に視覚的イメージとして残った。彼の書くものには軽やかさのなかに、さらに軽やかさがある。それが彼の面白さでもあるけど、ちょっと苦手かもしれない。2014/02/10

kaori

9
トゥーサンは翻訳されたものは全て読んできたが、今回のこれほど、躍動感、スピード感を感じたものはなかった。前々作「愛しあう」前作「逃げる」との連作らしいが、それを感じさせられない程、新たなトゥーサンだった。作中現れる馬たちは、ふたりの関係性を表すメタファーなのだろうか?人生において大切なのは手とまなざし、そして声。なるほどと思う。マリーと僕のその後どうなったのか、僕とマリーの行く末が、早く目にかかるよう希うばかり。2014/01/22

DEE

4
物語はいつの間にか「ぼく」の目を離れ、マリーの視点に移り変わる。 その「いつの間にか」が、この物語の中心であるように思った。 なんだかんだと離れられない二人の話と言ってしまえばそれまでだけど、そこにいたる経緯を楽しみたい作品。2016/03/26

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