出版社内容情報
芥川賞受賞後待望の第一作
それはどこかの、血も繋がっていない赤の他人の話――「現代のボルヘス」が描く、強力な運命論の世界と壮大な時間の伸縮に組み込まれた、ある家族の一代記。
内容説明
血の繋がっていない、その男は、私にそっくりだった。青年の労働の日々はやがて日眩くチョコレートの世界史へと接続する―。芥川賞作家入魂の“希望の小説”。
著者等紹介
磯崎憲一郎[イソザキケンイチロウ]
1965年千葉県生まれ。2007年に「肝心の子供」で第44回文藝賞受賞。2009年「終の住処」で第141回芥川賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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袖崎いたる
11
磯崎憲一郎、おもしろい。物語の展開がおもしろいとかそういうのに限らなくて、この人の書いた文章を追跡しているときの気分がおもしろくなる、そういう小説。マジックリアリズムな気配もあるんだけど、そういうのともたぶん違っている。保坂和志と位相が近い気もする。つまり、小島信夫がこだわった小説の自由を模索する水脈にある小説、だと思う。1組の兄妹がいて、チョコの話になって、コロンブスの話になったり、フィレンツェが舞台になったりして、また兄妹に戻り、その両親、完。冒頭の語り手は不肖なのだが、問題にならない。ポストモダン。2020/05/16
メルコ
8
芥川賞受賞後の第一作にあたる。"チョコレート工場に勤める男は社宅で妻と兄妹の子どもがいる。やがて男の子も工場に勤務するようになるが、看護婦の女に恋をして…"高度成長期の頃の一家の話から、新大陸を発見するコロンブスがカカオを持ち帰り、ヨーロッパの宮廷で重宝される話になる。いつの間にか話が別のことになってしまい、どこへ連れていかれるかわからないおもしろさは著者の十八番。普通の小説の約束事を放り出して、楽しんでいるところがいい。2022/02/09
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8
語りのなかに自由間接話法(と言っていいのか)的に、誰のものかもわからない発話あるいは心内語が挿入され、次々に語る対象がずれていく冒頭、そこから一気にチョコレートの歴史へ脱線し、それに連なる物語がいくつも生まれる、スピード感がありつつ、重層的でもある、という特異な小説。2017/10/03
猫のゆり
5
なんて言ったらいいのかよく分からない不思議な小説だった。兄妹とチョコレート工場に勤める父の話から、コロンブスやら社宅に住み続ける両親やら、次々に話が飛び、どこにつれていかれるのか分からない心許なさが魅力になっていて・・。数々のエピソードの中でいちばん心に残ったのは、小説家を志す妹が一人で京都の洋食屋に入り、ビーフシチューを食べるシーン。寄る辺なく孤独なのに、ふいに幸福感がこみ上げてくる・・。経験したこともないのに、その情景がくっきりと浮かんできた。2011/06/11
黒豆
4
自叙伝的な話だが、カカオ、チョコレート、妹がキーで引き込まれる感じではないが気になりながら読んだ。2013/12/28