内容説明
スエズ運河株を電撃的に買収し、世界の制海権を掌握した英国。富の力を誇示した大英断だけでなく、ナイル川の源流探検やアフリカ先住民との戦いは、数々の国民的神話を生んだ。その「生ける伝説」たちの真実と、帝国拡大の陰で姿を消していった敗者の物語も発掘する。
目次
第2部 深まる確信一八五〇~一八七〇年(ナイルによって輝かしく―スピークの探検と死;エア総督の物語―「絞首刑執行人」とジャマイカ反乱;「モーセの五書ちゅうのはおかしくないかね」―宗教と大英帝国;カナダ混血人の屈辱―異民族文化の征服 ほか)
第3部 帝国の執念一八七〇~一八九七年(確固たる目的―帝国のイデオロギー;アシャンティ―ブラック・アフリカへ;剣によって―陸軍、海軍と英国人の好戦性;ザンベジ川の南―論理の破綻と戦闘の情景 ほか)
著者等紹介
モリス,ジャン[モリス,ジャン][Morris,Jan]
1926年、英国サマセット州に生まれる。英米圏では第一級の歴史・紀行作家として著名。第二次世界大戦中の軍隊経験を経てジャーナリストとなり、1953年には英国のエベレスト登攀隊に同行し、その初登頂を世界に発信した。その後、ヴェネツィアなど都市をテーマとする旅行記を数多く著す。1970年代に性転換し、ジェイムズ・モリスからジャン・モリスと改名
椋田直子[ムクダナオコ]
翻訳家。東京大学文学部大学院修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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kasim
21
下巻はヴィクトリア朝後期。ナイル水源を巡るバートンとスピークの有名な確執はやはり興味深い。南アフリカの歴史は劇的だけどどうしても分かりにくい。帝国の伝道者、ハルツームのゴードン将軍(C・ヘストンの映画があったなあ)も、『ダブリン市民』でよく言及される反帝国の偉人パーネルも、軽率な悪漢なのか奇矯な英雄なのか簡単に判断できない複雑な人物。木を枯らすようにじわりと滅ぼされ、白人が慌てた時にはもう生きる気力も失っているタスマニア先住民の悲劇も心に残る。2017/11/19
Hotspur
3
ユーモアに富んだ筆致(「人間や自然を手なずけられないときは、銃の打ち金を起こしたり、顎にアッパーカットを見舞うなど、英国人らしく健全な説得手段をとる」)で、19世紀後半の大英帝国の拡大・変容(「いまや英国は、文明をいわばパッケージで帝国領土に輸出し、強力なアフターサービス込みで現地産の文化と競合する時代に入った」「1870年代に入ると、英国の長所に対する確信が、支配力に対する確信に変わる兆しが見えはじめる」)が描かれる。なお、ディケンズを含め、文化面への言及はあまりない。2021/02/13
roxy001960
1
大英帝国の絶頂期の雰囲気が伝わってきます。現状を見るに、植民地の功罪は相半ば。時代とともに、人間の価値観も変わる。絶頂を過ぎた帝国がどのような自己分析をするのか、続編で確認したいと思います。2011/01/02
キミ兄
0
「大冒険時代」とよく似た展開。エピソード間のつながりはない。ビクトリア女王がほとんどエピソードに出てこない。ボーア戦争、セシル・ローズ。☆☆☆。2011/05/01
もとせ
0
336頁【英国の覇権が現実に脆弱になればなるほど、帝国の概念は感情的なものになっていった。英国史はいまや肥大し、成熟しきっていた。当時の英国人は帝国を、笏を手にした女人ブリタニア像や、歩哨に立つ頬髭を蓄えた陸軍兵士の形で擬人化するのがつねだったから、私たちもそれに倣って帝国像を描けば、得意の絶頂にあっていささか涙もろく、粗野で肉づき豊かな女といったところだろう。英雄崇拝の時代のことで、大英帝国も自前の英雄を偶像視し、主役たちにメダルや勲章や恩典を浴びせかけた。】2013/08/21