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内容説明
二人の死者とは、二つの一族のアフォウトとモウチョを指す。両者が死んだ1936年の11月と1940年の1月の2回だけ、盲人のアコーディオン弾きガウデンシオはマズルカ『わが愛しのマリアンヌ』を奏する。最初は喪に服するために、2度目は歓喜の気持を表すために。舞台を故郷ガリシアにおいたノーベル賞作家の自伝的長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
265
前衛的で個性的な手法で語られる。登場人物は優に100人を超えるだろうし、そもそも小説の語り手も主要な4人だけにとどまらない。小説の構造は、表題にマズルカとあるように、同じフレーズが何度も旋回し、螺旋的に描かれるが、それは時に、あるいはしばしば時間を飛び越えていったりもする。冒頭は雨のシーンに幕を開けるが、物語世界全体を支配するのが、ガリシアの雨であり、この小説が統体として描くのは、まさに混沌としたガリシアである。死とセックスと日常と聖なるものとが猥雑さの中に同居する、奇妙でしかし確固として存在した世界だ。2015/11/27
兎乃
38
ショパンのOp.50, 56を想起させる構造。民族性と幻想性が 高いレベルで融合され、主とする物語である部族間の暴言・暴力・復讐・セックスといった血生臭さが 小説として昇華 洗練されていく。ユーモアや女達の逞しさに救われつつ。秋雨が続き、パリのテロ報道が駆け巡る中の読書、スペイン内戦を経て作家デビューを果たしたカタルーニャ文学のカミロ・ホセ・セラ、その自伝的要素を含む傑作。ガウデンシオのアコーディオンを聴け。2015/11/21
彩菜
29
小糠雨が降っていて、一つの死体がある。古い死の記憶。何人もの人々がその死について語り出す。順序も語り手もごたまぜの記憶の断片、それはガリシアのある一族のものであるようだ。また複数のモチーフが反復している…復讐、失われる財宝(財宝、それは大抵生命力の象徴だ)の伝説、戦争、記憶、血の臭いのする犬と狼…主旋律は一つの内戦を越えて果たされる復讐劇で、語りはその復讐へ収斂する。最初の死と最後の死が釣り合いを取り、最後の死者と最初の死者が繋がり合い、物語の円環が創られる。→2022/05/16
syaori
26
滔々と流れる水のように語られるのは記憶。浮かび上がるのは語り手たちの住むスペイン・ガリシア。冒頭から何人もの語り手たちが渾然となって記憶を語り、物語はエピソードを繰り返しぐるぐると螺旋状に進んでいきます。積み重ねられる性、死、日常を巡る猥雑なエピソードは、しかし「すべて遥か昔のこと」、記憶のなかの物語で、多数の語り手によって語られることで事実はこぬか雨のなか遠くの景色を見るような茫洋としたものになりますが、同時にその積み重ねた記憶のなかからガリシアという土地が真に迫って立ち上がってくることに感嘆しました。2016/07/12
ぽち
16
膨大な登場人物と膨大なエピソードが数行ごとの短いセンテンスで断片的に紡がれていく。人物の名前はといえば「ロリーニャ・モスコソ・ロドリゲス――バルドメロ・ガムーソ、つまりバルドメロ・マルビース・ベンテラ(あるいはフェルナンデス)またの名アフォウト――」いいかげんにせい、と本を閉じてしまいそうなのだけど、早々に人物と構成の把握を放棄してしまい文章の流れと言葉の響きに身を委ねるようにすると、膨大なエピソードのいちいちがおもしろくてたまらない。この作品、読メをやってなかったら巡り合うことはなかったかも。2016/05/30