内容説明
つつがない食卓の光景のかなたを、生きる切なさの遠近法で描いた短篇集成。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
メタボン
31
☆☆☆☆ 食事の描写が多く「午後の食卓」とした方がそれらしい連作短篇集。「遠景の家族」が出色の出来。アイヌ語から喚起されるイメージから北海道が舞台の印象が強い。古典や仏典からの言葉の引用により世界が膨らみ、独特な文章となっている。このあたりの文章の流れ方は森内俊雄の持ち味。隣家の年下の夫婦に当てて書く手紙の形態で自らの来し方をつづる「翼の垂氷」、煙草を所望した女に連れなくしたことがまるで恨みを買ったように思われる「煙草を吸う女」、蕁麻疹と食べ物とクラシック音楽に向き合う「極楽」も良かった。2022/07/05