内容説明
留学生活に傷つき、母国を去らねばなぬ在日韓国人女性の悲劇。第100回芥川賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
きさき
12
★★★★★: 文体と内容、両方が素晴らしくて賞に相応しい作品だと感じた。たまたま、これは韓国 の話だけど、どこの国でもある事だと思う。理想、憧れが強すぎて実際に行ってみた時のガッカリ感、更に自分自身も思っていたより「日本人」だったという事実。最後、諦めて帰国しちゃうところがモダン小説として成立する。思い出しながら語る語り手のstream of consciousnessが良かった。私もずっとアメリカに住んでてたまに日本に帰るとギャップを感じる事があるから、特に刺さったのかも。2024/03/31
大粒まろん
11
とても丁寧に言葉が選ばれていた。読みやすく平易で正直な文体。静かに納得できる力強い作品だった。アイデンティティは難しい。隣の人や家同士であっても踏み絵の様なことは起こる。人は同じである事に異常に執着する。そのくせ他にはない個性を欲しがる笑。違いや同じを意識し過ぎても無視し過ぎてもいい事はない。程よく保つことを心がけるしかない。これが平素難しい。なので、時にその場所から離れることもまた、必要であるならばやればいい。帰る場所があれば、それもまた幸せなこと。喜びを見出すことを忘れなければいいのではないだろうか。2023/05/31
おか
11
不思議な小説三編。重苦しいが どろっとしていない。波に弛たっているけど そこは 底が全く見えない底なしの海、そんな感じ。「由ひ」は在日韓国人を下宿人として受け入れた韓国人が ユヒが去った後の心のあり様を去られた本国人として書かれたもの、「来意」は余りにも抽象的すぎて私には理解不能。両作品共 全く「」付きの会話がなく 全て その人の心の中を文字という言葉で表現している。「青色の風」は歪な世界に 現実感が持てない小学生の生活。三編共 不安感を煽り 会話とか対話とかが 虚しい事と意識させられる。作者の孤独を→2016/04/06
モリータ
6
◆李良枝(1955-1992)、表題作初出1988年11月、同年度下半期芥川賞受賞。「来意」1986年5月、「青色の風」1986年12月。◆「来意」の「遮断感」というのに、自分自身にある名状しがたい感覚を描写しようとする試みを思い出させられた。2025/04/25
昭和っ子
5
リービ英雄さんのエッセイでこの作家を知り読んでみました。在日韓国人の女性が韓国へ留学し「祖国」へ溶け込もうとするのですが、ネイティヴではない韓国語になじめず、留学半ばで日本へ帰る事になってしまう哀しみを、彼女と同じ下宿に住んでいた韓国人女性の視点で「日本語で」描かれています。偶さか下宿させたというだけで、在日女性の内省的な苦しみに付き合ってくれる韓国の人々は日本よりは人と人との距離が近いのかもと思いました。読書中の「ジェノサイド」に韓国の”ジョン(情)”の事が出ていて、こういうことなのかな?と思いました。2012/01/23