内容説明
天皇崩御のニュースをきいて近くの御用邸に記帳に出かけた。昭和に生まれた私は、私の時代が終わってしまったような気がした。元新聞記者の私は、十歳年下の共同生活者、真子と葉山に暮らし、四季を楽しんでいる。しかし、さまざまに形をかえて潮だまりが出現するように、二人の間にわだかまりがないわけではない。戦時下に生まれ、戦後を生きる男と女を静かに描く野間文芸賞受賞作。
著者等紹介
高井有一[タカイユウイチ]
1932・4・27~。小説家。東京都生まれ。早稲田大学英文科卒業。共同通信社に入社、文化部記者となる。同人誌「犀」の創刊に参加し、立原正秋や加賀乙彦らを知る。少年期の疎開体験、母の死を描いた第一作「北の河」で芥川賞を受賞。すぐれた観察眼と豊かな物語性のある長短篇を発表している。他に『少年たちの戦場』『遠い日の海』など多数。『この国の空』により谷崎潤一郎賞、『夜の蟻』により読売文学賞、『立原正秋』により毎日芸術賞、『高らかな挽歌』により大佛次郎賞、『時の潮』により野間文芸賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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eirianda
8
          
            大人だ……。わたしよりもずっと大人の昭和の恋愛小説。これを読んでいると恋愛小説なのに性欲も物欲も情念も消え失せてしまう。この話で老いるということは死と諦観と受容が待ち受けている。美しい老い方。物哀しい美しい話。60を超える頃、こうありたいと思うが、不幸にもわたしの知る限り周りの初老はもっとゲスい。戦争体験がないからか? 死が間近でなかったからか? それともわたしの環境が悪いのか?2015/05/06
          
        アメヲトコ
1
          
            昭和という時代が終わったころの葉山を舞台に、戦中派の主人公と、10歳下の女性との暮らしを描く小説。登場人物はそれぞれに悲しみを抱えながらもそれを露骨に表出することなく、潮が満ち引きするように微妙な綾が綴られていくところに大人の文体を感じます。今年100冊目がこの本で良かった。2016/08/06
          
        amorlibresco
0
          
            高井有一という人の本をはじめて読んだ。じっくりと味わうように読んだ。心にしみわたらせるように読んだ。それにふさわしい文章、厚みのある人物たち、そして実のある物語だった。ここにあるのは、文学そのものを更新するような文学ではない。しかし、制度的な文学の枠組みの中にあって、これほど質の高い「文芸作品」を生み出せる作家もそうはいないだろう。50代と40代の男女の恋愛物語に酔った。古臭さも含めて、戦争を経験した人たちの思いを噛みしめた。2015/11/03
          
        

              
              
              
              

