感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
YO)))
23
<真実のユーモアというものは、人間の知性や悟性が、破滅するところから生れて来るのだ…>―その実践としての短篇.極限状態で,自己を突き放して見ることで生れるユーモア,というのは私小説の真髄にも一脈通ずるものがあるのではないだろうか.情況の過酷さと描写のリアリティの点から,「神の道化師」と「紙縒りの紐」を推す.2014/08/24
りー
11
ふッと始まりふつりと終わる物語の滑稽な哀しみよ。2016/03/03
ken
4
母子家庭で貧困に苦しみマルクス主義に傾倒するも転向、思想的挫折から洗礼を受けた椎名麟三。その半生は彼に死への恐怖を抱かせ生きることの意味を問わせるほどに苦悩に満ちたものだった。本書に収められた短編は彼の貧困生活に材を取ったものが多く、主人公は共通して生への倦怠を抱いている。作品が類型的なプロレタリアものと一線を画すのはその主題が「個の死」「個の有限性」に根付いているからだ。実際キルケゴールやハイデガーにも傾倒した彼は日本に実存主義を広めた旗手としても有名らしい。戦後派の中では個人的に1番好きな作家かも。2017/05/09
yunomi
3
「媒酌人」がとにかく面白かった、ものすごく図々しい奴が勝手に家に入り込んで、我がまま勝手に振る舞い、やがて家の主人の立場を追い落としてしまう、というプロットは何かカフカっぽい。貧乏臭さとカフカ的不条理が結びついた抱腹絶倒の世界。2010/04/06
Viola
2
家出、投獄、電鉄会社、実際の体験がベースにあるので描写がリアル。そこに起こる出来事と人間をドタバタとひやりとするブラックユーモアで描く。キリスト教に入信後の作品で、背景には信仰が色濃く感じられるが、表面上はわからず、そんなこと意識しなくても面白い。パウロの否認を連想させる「神の道化師」は、読後しばらくしてジワジワと心に沁みる。「媒酌人」として徒労感を覚える主人公はまさにイエスその人。実体のない女からの返事を待つ「カラチの女」の最後のセリフには思わず笑い共感した。丁寧な解説が助かった。他の作品も読みたい。2016/05/04