内容説明
現代詩の前衛にして、加藤楸邨を師と仰ぐ俳人。また、芭蕉、蕪村、定家の独創的評釈で知られる古典探究者。昭和四六年から四八年、芭蕉の連句評釈に心魂を傾ける傍ら、二巡りする四季に寄せて万葉から現代俳句まで、秘愛の歌へのオマージュを「季節のうた」として書き続けた。俗解を斥け、鍛えぬかれた言葉で読み解く百三篇の短章は、正に“秋水一閃”の達人の技を思わせる。
目次
ひぐらし
くずの花
仲秋の佳句
秋まつりの魚
君まつと
黄落
うめもどき
亥の子
読人しらず
良寛の歌〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
朝日堂
17
「猿蓑」所収歌仙「灰汁桶」の巻の三十一番去来、三十二番野水の付合「物うりの尻声高く名乗すて」「雨のやどりの無常迅速」を引き、これほど盛夏の訪れの印象をきわやかに捉えた詩歌はまず他に例を見まいと賛する。この面白さは去来の句に、梅雨も明けた盛夏の風情が的確に捉えられており、それを受けた野水が、盛夏の雨は梅雨とは違うという認識を「迅速」の二字に打ち出した点にある。一見突然の夕立で物陰にかけこんだ人たちの姿を軽いタッチで描いた小品のようだが、活気と無常が一物の表裏であることをあらわす見事な芸と見る。絶品の詩歌本。2013/06/16
AR読書記録
2
博覧強記ぶりスゴイ。そして俳句の(字数はより多いけど短歌も)、五七五に含まれているものの多さ、深さに気づかされる。そして時代のなかで失われていったものとともに、深さに気づかれなくなる句もたくさんあるんだろうな、とも。季節感だけでもどんどん変わっていて、例えば現代に季節を詠んでどのくらい細やかな描写ができるんだろうか、とか、ちょっと気になってくるので、最近の句集というものを読んでみたい。2014/07/21
takemikaduchi
0
芭蕉一派のぬかりない俳諧の応酬など、古今の詩歌に仕込まれた「芸」や「工夫」を縦横に読み解く。解説をして「秋水一閃」と評され、ときに大家の自註すら退ける鋭さは、生半可な芸術の綻びを看破し、まずは技の冴えを問う姿勢を、なまくらな読者にも少しばかり植えつけていく。2013/05/19